「貯蓄から投資へ」の前に金融リテラシーの向上を

岸田政権は「金融教育の普及」を目指し、国民の「貯蓄から投資へ」を加速させようとしている。これに対して、教育現場で日々学生と接している渡邊氏は疑問を呈する。「投資教育の前にやるべきことがあります。それは前述したような金融リテラシー教育です」

金融リテラシーといっても、渡邊氏は「基本的な知識があれば十分です」と述べる。具体的には、債券と株式の違い、金融商品の現在価値、実質金利と名目金利、複利計算といった資産運用に関わることに加えて、健康保険の高額療養費制度や、住宅ローンの団体信用生命保険、クレジットカードのリボ払いでは支払利息総額がかさむことといった、知らないと損をしてしまうような知識のことだ。

社会人になる前に知っておくべき金融知識もある。例えば、「1円スマホ」と呼ばれているスマホの割賦販売の内容についてだ。現在は、「1円」という設定こそ少なくなったが、端末代金の分割払いと月間の通信料を合算して支払うスマホの購入方法がある。学生の場合、月々の支払いが遅延しても大した問題にはならないと甘く考えている学生は少なくない。端末代金の分割払いは割賦販売となるため、支払いの遅延はユーザーの信用情報を毀損することになる。授業でそういった話題を取り上げると、多くの学生は驚くという。

「リテラシー=知識×判断力だと考えています。したがって、正しい知識を学ぶと同時に、自分の頭で考えてもらうことが大切です。正しい知識を使って判断力を養っていけば、社会人に必要な金融リテラシーは磨かれていくでしょう。そうすれば、複雑な仕組み債や貯蓄性の保険商品には手を出さない、といった正しい判断ができるにようになるはずです。そうしたステップを経た後で、投資をするかどうかを本人に委ねるべきです。前段階を省いて、いきなりリスクマネーの供給を個人に要求するような政府のやり方は再考の余地があると思います」