個人の取引高が急増したのはなぜ?

その個人が、2022年中になぜ1京円を超えるほどの大規模な取引を行ったのでしょうか。同レポートでは、その要因のひとつに「短期的な取引の活発化」を挙げています。

FX取引には2つのパターンがあります。金利の低い通貨を売り、金利の高い通貨を買って、両通貨の金利差をスワップポイントとして獲得していく「キャリートレード」と、外国為替レートの値動きを捉えて売買を繰り返す「短期トレード」です。

特に前者は、スワップポイントを稼ぐのが主目的ですから、短期間のうちに売買を繰り返すのではなく、ポジションを長めに保持する傾向があります。一方、短期トレードは売ったら買い、買ったら売りを繰り返すため、取引高全体を増やす方向に作用します。

これは具体的な数字にも表れています。日本銀行のレポートでは東京先物取引業協会の数字を挙げて解説していますが、特に2022年に入ってからは、建玉に対して取引高が大きく上回っていることを指摘しています。

建玉とは、短期売買を繰り返すことなく保持され続けている外貨の買いポジション、あるいは外貨の売りポジションのことで、この中にスワップポイントの獲得を目的にしたポジションが含まれています。

それに対して、取引高は売買されている金額ですから、これが2022年に入って急増しているのは、個人のFX取引の目的がスワップポイントの獲得にあるのではなく、売買益の獲得にあることを意味するのです。

では、どうして2022年に入ってから、ここまで取引高が急増したのかというと、やはり米ドル/円が大きな米ドル高トレンドを描いたからだと思われます。実際、同レポートでも、2022年の個人FX取引の特徴のひとつとして、米ドル/円の取引の活発化を指摘しています。

米ドル/円の動きを見ると、2022年1月が1米ドル=115円台から、同年10月21日には151円94銭まで米ドル高が続き、同年12月30日には1米ドル=130円78銭の安値まで売られました。

これはチャートを見ると分かるのですが、米ドル/円は2016年以降、非常に狭いレンジでの推移が続いていただけに、2022年は久々に大きなトレンドを描いた1年になりました。この大相場が、個人の短期トレードを促して、取引高の急増につながったと思われます。