日銀が個人のFX取引に注目する理由
ところで、日本銀行がなぜ個人のFX取引に対して関心を持っているのかというと、それは個人がFX取引を行うことで、インターバンク市場のスポット取引の相場形成に影響を及ぼすと考えられているからです。
スポットレートとは、取引が約定されてから資金受渡日までの期間が2営業日以内の取引に対して適用される外国為替レートのことです。よくニュースなどで報じられている外国為替レートは、このスポットレートになります。
FX取引を行う個人は、さまざまな通貨の売買注文をFX会社に発注します。たとえば米ドル/円で、円売り・米ドル買いの個人もいれば、円買い・米ドル売りの個人もいます。あるいはユーロ/米ドルや米ドル/豪ドルの取引など、さまざまな通貨ペアの取引が行われています。
こうしてFX会社は、そこに集まってくる各通貨の売り注文と買い注文をつけ合わせます。その結果、たとえば米ドルの売り注文と買い注文が同数になれば良いのですが、さまざまな通貨ペアと取引されているので、売り買いの注文が同数になることはありません。必ず特定の通貨の売り注文か、買い注文が余る形になります。
仮に、米ドルの買い注文が50万ドル分、残ったとしましょう。この時点ではFX会社が自己勘定で50万ドルの買い注文を持っている形になりますが、この状態で円高が進んだとしたら、このFX会社は50万ドルに対して為替差損を被ることになります。
それはFX会社の財務リスクになりますから、このFX会社はインターバンク市場を通じて、50万ドルを買いたいと考えている主体に売却します。その結果、インターバンク市場に50万ドルの売り注文が出てきます。
こうして、個人のFX取引によって、インターバンク市場のスポットレートに影響が及ぶことになるのです。
日銀は「物価の番人」ですが、同時に財務省の代理人として、外国為替市場が行き過ぎた場合には、為替介入を行う権限を持っています。
なぜなら、日本のように海外から資源・エネルギー、食料の類いを大量に輸入している国にとって、為替レートの値動きは、国内物価に大きな影響を及ぼすからです。その関連で、日銀は個人のFX取引の動向が外国為替レートに及ぼす影響を常に注視しているのです。
同レポートによると、全スポット取引に占める個人関連の割合は、グローバルでは5%程度であるのに対し、日本国内では全体の約2割が個人の取引で占められたということです。
また、グローバル市場に占める日本のスポット取引高と個人関連の取引高のシェアを見ると、スポット取引が10%未満であるのに対し、個人は約3割にも達したそうです。
つまり日本の個人が行っているFX取引は、グローバルの外国為替市場でも、一定のプレゼンスを持っていることになります。