正しい情報は為替レートを読みとる羅針盤

ディーリングルームでまだ新人のころ、先輩ディーラーに「相場観はどうやって磨くのですか?」と尋ねたことがあります。当時はまだ、FX市場も発展途上にあり、為替相場のロジックから嗅覚まで、個人投資家にもわかりやすいように網羅的にまとめた書籍はほとんどありませんでした。

先輩はまだヒヨッコの私に「経験が大事」と仰っていましたが、その後、外資系金融機関の為替ディーラーから事業法人の財務部門での為替ヘッジ業務、為替アナリストと、筆者自身が外国為替を軸にさまざまな業務に携わる機会をいただき経験を積んだことで、実際に見えてきたことがあります。

それを何とか書籍にまとめたいと、思い切って『本当にわかる為替相場』を最初に出版したのが2012年5月。それからあっという間の11年でした。

いまや、個人投資家でもスマホさえあれば、現状のスポットレートを確認でき、瞬時に売買することもでき、金融市場の情報も簡単に得られるわけで、新人時代からいまに至るまでの、 すさまじいITイノベーションの波と、外為市場の民主化には目を見張るばかりです。

YouTubeでも、頻繁に相場の解説が行なわれるなど、動画でもわかりやすい情報発信が行なわれており、いちいちディーリングルームに電話してレートを確認したり、ポケットロイターなどの携帯用情報端末を持ち歩いたりしていた世代からすると、正に隔世の感があります。

ただ、インターネット上に情報が溢れる世の中だからこそ、情報の取捨選択はむしろむずかしくなっているように見えます。

1日平均7.5兆ドル(約1000兆円)もの取引が行なわれている外為市場という大海に小さなヨットで漕ぎ出したら、大きな波に飲み込まれぬよう、風向きや風速、天候や波の状態など、羅針盤を片手に確認すべき基礎的かつ重要な情報があるはずです。

大海で方向感を見失ったとき、為替相場は止まって待っていてはくれませんので、その時点から溢れる情報を取捨選択していては間に合わないと思います。

そうした点からも、為替市場にかかわる多くの方々に、何か迷ったときにふと目を通して、「あ、そうだったな」と立ち返っていただくような、そんな羅針盤のような存在として活用いただければ、こんなに嬉しいことはありません。

●第2回(まずは“この3つの通貨レート”をチェックせよ!  為替のトレンドをつかむ王道とは)では、他国の金融政策にも目を向ける重要性や注目すべき通貨のペアなどについて解説します。

『〈最新版〉本当にわかる 為替相場』

尾河眞樹 著
発行所 日本実業出版社
定価 1,870円(税込)