中野氏退任に寄せられたコメントの正当性とは
いくつか、コメントを取り上げてどこが間違っているのかを考えてみましょう。ちなみにコメントを書かれたご本人の名誉もありますので、ここでは誰のコメントかは一切伏せさせてもらいます。
基礎知識の間違い
「投資信託の場合は受託者側の投資方針の変更は当然に起りうるのですが(後略)」。
これは、投資信託の基本中の基本も知らないコメントです。上記のコメントの筆者は、受託者と委託者の違いも理解していないのでしょう。
投資信託において受託者とは受託銀行、つまり信託業務を営み、信託財産の受託を受ける金融機関のことを指しており、受託者には投資方針を変更させるような権限は一切ありません。
つまりこの筆者は、受託者ではなく委託者(=投資信託会社)と言いたかったのだと思われます。このような基本の知識を理解していないという点だけで、該当部分以外のコメントも正当性に疑問を覚えます。
ちなみに、たとえ委託者といえども、投資方針を急に変更することなど、できるはずがありません。
たとえばセゾン・グローバルバランスファンドの目論見書では、「ファンドの特色」という項目で、①資産配分比率は株式50%、債券50%、②国際分散投資、③低コストのインデックスファンドに投資、④原則として、為替ヘッジは行いません、という4つの特色を打ち出しています。
この投資方針は、受益者の資産の運用を委託された投資信託会社と、受益者との間で確認された、重要な約束事です。この約束事は非常に重要な意味を持っていて、これを容易に変更したりすれば、信頼性を失うことになります。
実際、セゾン投信は中野氏の退任後も、投資方針には大きな変更がないことを表明しています。
印象操作に近い物言い
「セゾン投信の顧客はほぼイコール積立王子ファン」。
この話を知らない方のために補足すると、積立王子とはセゾン投信会長の中野晴啓氏のニックネームです。
確かにセゾン投信が設立された当初は、中野氏が全国で啓蒙活動をして集めたお客様が中心でしたでしょうから、この言い方もあながち的外れではないと思います。
ですが、すでに6300億円もの預かり資産を持つ投資信託会社で、その資金の大半が中野ファンの資金だとは到底思えません。この手の印象操作に近い物言いには、ある意味、世論誘導の思惑さえ感じられます。
単純な事実誤認
「16年も前から全国を飛び回りコツコツ積立を奨励してきた伝道師だからこそ信じてお金を託した顧客からすれば、投資用不動産の不正融資問題を起した銀行に『移管』されたらビックリ」。
これも意味不明です。投資用不動産の不正融資問題を起した銀行とは、クレディセゾンが業務提携を結んだスルガ銀行のことを指しているのだと思われますが、このコメントを読むと、「え、セゾン投信の直販口座がスルガ銀行に移管されるの?」と読めてしまいますが、そんなことはありません。
これはあるFPの方も同じような認識を持っていて、「だから解約しようと思います」などと頓珍漢なコメントをしていましたが、ここまで事実誤認をしてくれると、むしろすがすがしさすら感じてしまいます。
こうしたコメントを全員が全員出しているわけではなく、中には非常に良い意見を述べられている専門家もいらっしゃいますし、その内容には「さすがだな」と思います。しかし、中には専門家と言いながら、この手の認識しか持っていない人もいるということを、情報の受け手は十分に理解しておく必要があります。
間違った専門家の意見を鵜呑みにして間違った行動をとった結果、大損するなどしたら浮かばれません。資産形成には金融リテラシーだけでなく、情報リテラシーも重要な意味を持っているのです。