今回の講演内容

やや前置きが長くなりましたが、今回の講演の内容を抜粋しながら、今の日銀がこれからの物価をどう見ているのか、金融政策を通じて金利をどういう方向に導こうとしているのか、といった点について見ていきたいと思います。

時系列で見る金融政策

今回の講演では、1990年のバブル経済崩壊以降、日本の景気が大きく後退していく中で、どのような金融政策を行っていったのかを時系列で説明している点が非常に興味深いところです。

日銀が金融政策で直接働きかけられるのは短期金利ですが、バブル崩壊後に行った相次ぐ利下げで、短期金利の水準がほぼゼロになってしまいました。

金利引き下げによる金融緩和政策が取れなくなった日銀は、2001年に新たな緩和策として、日銀が金融機関に供給する資金量を増やす「量的緩和政策」を導入。

さらに2013年からは「量的・質的金融緩和(QQE)」を導入し、大規模な国債買い入れによって長期金利を引き下げるのとともに、ETFやJ-REITの買い入れ拡大によって、市中に大量の資金供給を行い、かつ株式市場のリスクプレミアムを縮小させる働きかけを実施しました。

効果

では、その効果のほどはどうだったのでしょうか。植田日銀総裁はこう言っています。

「物価が持続的に下落するという意味でのデフレではない状態が実現しました。(中略)もっとも、2つめの課題である物価や賃金が上がりにくいという考え方の転換には時間がかかるということが、徐々に明らかになったということも付け加えなければなりません」。

消費者物価指数を見ると、生鮮食品を除く総合の前年同月比は、リーマンショック後の2009年3月から2013年4月まで、大半の月においてマイナスが続きました。

また2016年3月から12月と、コロナショック後の2020年4月から2021年7月までは、すべての月において前年同月比マイナスになったものの、2022年4月以降はすべての月において、日銀が金融緩和を解除するための前提条件である、消費者物価指数の前年同月比2.0%上昇をクリアしています。

その点において、日銀がこれからの金融政策をどうするのか、方向転換はありうるのか、という点は、興味深いところです。