景気と物価
日銀が現在の景気と物価をどう見ているのかについて、植田総裁の話を要約すると、おおよそ以下のようなことを言っています。
「インバウンドを含むサービスや設備投資など、感染症のもとで抑制されてきた需要の顕在化によるペントアップ需要を主因とした緩やかな景気回復は、今年度半ばくらいまで続く。その後、景気改善の主役は『所得から支出への好循環』という、より持続的なものに移っていく。今春の労使交渉での賃上げ率は昨年を大きく上回っている模様。これは家計の所得改善を通じて、個人消費を後押ししていくと考えられる」
ペントアップ需要はあくまでも一時的な要因でしかありません。景気が持続的に改善するには、賃上げによって家計の所得が改善され、個人消費が刺激され、企業業績が改善して設備投資需要が高まり、これらの需要増が賃金、企業業績のさらなる改善につながるという好循環が必要になります。
物価上昇
また日銀は、今の物価上昇について、「現在、物価が3%を超えて上昇している主な理由は、需要の強さではなく、海外に由来するコスト・プッシュ要因」であると考えています。
海外に由来するコスト・プッシュ要因とは、海外から輸入している原材料や資源・エネルギーの価格上昇によってもたらされるインフレです。当然のことですが、これらの価格上昇が落ち着けば消費者物価は低下します。
2022年4月以降、日銀が金融緩和を解除するための前提条件である、消費者物価指数の前年同月比2.0%上昇をクリアしているにもかかわらず、金融緩和を解除せずにいるのはこれが大きな理由です。
また、今春の春闘における労使交渉での賃上げ率は、昨年を大きく上回っている模様ですが、中小企業も含めて賃上げの動きが広まっていくのかどうか、今後も持続的に賃上げされるのかどうかが、現時点では不透明です。
これらの見通しを受けて、「日本銀行としては、イールドカーブ・コントロールのもとで、大規模な金融緩和を継続していく方針」というのが、植田総裁の結論でした。本稿を機に、今後の植田日銀総裁の講演にも注目してみてはいかがでしょうか。