単なる株式のレバレッジは資産形成に向かないのか?

一方、レバナスではもともとリスクの高い株式にレバレッジをかけて投資しますから、リスクは相当高くなります。したがって、これが新NISAの対象にはならないのは合理的だと思う人もいますし、普通に考えればそのような結論になるのでしょう。でも、この商品単体ではなく、ライフサイクル投資の観点からみると、別の結論も出てきます。具体的にはどういうことか、説明したいと思います。

まず、ライフサイクル投資のカギとなるコンセプトは「人的資本」です。この人的資本とは投資家が将来稼ぐ力を意味しており、正確には引退するまでに獲得する給料の割引現在価値と定義されます。したがって、引退するまでに長い期間のある若い人は、人的資本を多く有していることになります。

また、日本人の給料は比較的安定しているため、人的資本は長期の債券に近い特性があると言えます。つまり、多くの若い人が有する金融資産は少額かもしれませんが、人的資本という多額の債券をすでに有していることになります。

このような状況においては、金融資産で多少リスクをとって運用しても、人的資本を含めた資産全体に与える影響は軽微です(全体ではあまりリスクは増えない)。そのため若い人であれば、金融資産の全額を株式に投資しても問題ないと結論づけることができ、この結論は多く人が納得できるものだと思います。

でも、ちょっと待ってください。おそらく皆さんは無意識のうちに「ある制約」をつけて考えています。それは「投資金額の合計は投資元本の100%までとする(レバレッジをかけてまで投資をしない)」という制約です。ところが、100%までとする制約を外して(つまりレバレッジをOKとして)リスク当たりのリターンが最大となる最適資産配分を求めると、若い時にはレバレッジをかけてでも株式投資をしたほうがよいとの結論が導き出されるのです。これを単なる机上の空論と思う人もいるかもしれませんが、計算上はそうなるわけで、この計算に基づく最適解は無視できないのではないでしょうか。

冒頭でも申し上げましたが、新NISAではレバレッジのかかっているレバレッジ型の投資信託は対象外になる予定です。しかし、ここまでお読みいただいた読者であれば、少なくともレバレッジ型の投資信託は、活用次第で資産形成の害にならない点をご理解いただけたのではないかと思います。

株式市場には長期でみると右肩上がりの傾向がありますから、株式のショート(空売り)を行う投資信託が長期投資に不適切なのはその通りかもしれませんが、レバレッジ型の投資信託には一定の合理性があるはずです。もちろん、無制限にレバレッジ水準を上げるのは適切ではありません。何らかの上限を設定すべきですが、上記のようにバックグラウンドがしっかりしている場合には、レバレッジを資産形成に活用できるような道を残すことも必要なのではないでしょうか。