本人の希望通りに受け取る手立てはある?

S社の担当者から、「この移換を止める手立てはなかったのか?」と質問され、「システム制御のためにできません。企業型DC口座は一人一つという決まりに従い、そうした手続きが行われました」と回答するしかありませんでした。

「M社でのDC資産は63歳では受け取れないということか?」との質問にも「63歳になられた時にS社を退職されていれば、受け取りが可能です」という回答となります。

仮にAさんが63歳でDC資産を受け取りたいという意向が強かった場合、どのような手立てを講じることができたでしょうか? S社の企業型DCがスタートする前に、M社のDC資産をiDeCoに移換しておけば、63歳での受取は可能だった、といえます。しかし、iDeCoに資産移換する際には、M社での運用資産がいったん全て売却され、iDeCoの口座開設費用も発生することになります。

実際に事例が発生してみないとケースバイケースの内容が多く、メリット・デメリットは一概には説明しづらいものといえるでしょう。

相次ぐ制度改正でDC制度は複雑になってきました。長くDC業務を担当している筆者でも初めて出会う事例が多く、一つ一つの要件を確認しながら説明する場面が増えています。

2024年12月には確定給付企業年金(DB)がある企業では、企業型DCの拠出上限額が変わってきます。企業型DCの実施企業も運営管理機関も、よりきめ細やかな対応が求められるようになるといえるでしょう。