高年齢者雇用の環境変化は拡大

DCの資格喪失年齢の引き上げは、世の中の高年齢者雇用の進展を反映しているといえます。

60歳定年制の企業では、定年到達者の86.8%が継続雇用を選択しており、定年による退職は13.2%と限定的です(※1)。高年齢者雇用確保措置がスタートした2006年ごろと比べると、様変わりしているといえるでしょう。

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)では、「定年制の廃止」や 「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」(高年齢者雇用確保措置)のいずれかの措置を、65歳まで講じるよう義務付けています。

さらに、2021年4月1日からは、70歳までを対象として、「定年制の廃止」や「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」という雇用による措置や、「業務委託契約を締結する制度の導入」「社会貢献事業に従事できる制度の導入」(高年齢者就業確保措置)という雇用以外の措置のいずれかの措置を講じるように努めることが企業に義務付けられました。

こうした制度変更により、60歳定年制を見直す企業も増加傾向です。厚生労働省が実施した従業員21人以上の企業235,875社を対象とした調査によると、 65歳定年企業は52,418社で全体の22.2%を占めています。企業規模別では、中小企業(300人未満)が22.8%で前年に比べ1.1ポイント増加し、大企業は15.3%で1.6ポイント増加しました。また、定年年齢を65歳超に設定したり、定年制を廃止した企業は16,867社と全体の7.2%となっています。60歳定年制を見直した企業は約3割に達する結果となっています(※1)
※1 厚生労働省 令和4年「高年齢者雇用状況等報告」集計結果

60歳以降も加入者になれる企業が増加

2022年5月に施行されたDC法では、iDeCoの資格喪失年齢の引き上げに注目が集まりましたが、それ以外にも2点、変更が行われました。

一つは、老齢給付金の手続き期限が75歳に引き上げられたことです(従来は70歳)。もう一つが、企業型DCの同一事業所要件の撤廃です。それ以前は、企業型DC規約で資格喪失年齢が引き上げられても、60歳の前後で同じ事業所に勤務していなければ、60歳以降の加入者資格がありませんでした。同一事業所要件が撤廃されたことで、60歳以降に入社した人が加入対象の職種であれば、加入者になることができるようになりました(※2)

60歳定年の見直しを実施した企業が3割という状況では、同一事業所要件の緩和は当然のことかもしれませんが、この影響は意外なところに出てきています。Aさんの事例を見てみましょう。
※2 規約に記載することで、「60歳以前から加入者である場合のみ、60歳以降も加入者となる」と限定することも可能。

Aさん(61歳)の事例
前職:M社(定年年齢60歳、DCは2017年から開始、企業型DCの資格喪失年齢:61歳)
現職:S社(定年年齢65歳、DCは2022年5月から開始、企業型DCの資格喪失時期は65歳の年度末)

AさんはM社に60歳の定年時まで勤務し、DCの加入期間は4年2月(50カ月)でした。M社で企業型DCの資格を喪失した際に、DCの受給可能年齢は63歳の誕生日以降という連絡をもらい、その認識でいました。M社で数カ月間、再雇用嘱託として働いた後、S社に転職。転職の直後に企業型DC制度がスタートし、S社のDC加入者になりました。

そんな折、突然「移換完了のお知らせ」が届きます。

AさんはM社の企業型DCで運用指図者になり、あと2年で受取が可能になるので、M社の企業型DC資産はその時に受け取るつもりでいました。