特に遺言が必要な家族とは…

遺言がなかったために、「遺産分割に時間がかかった」という困った人の話をほうぼうで聞くものの、現状では遺言を作成している方はまだ少数です。

原因として、親は「子同士で揉めてほしくない」と願うあまり、「うちは揉めることもないから遺言は必要ない」と考えてしまう方が多いからではないか、と筆者は考えています。

たしかに揉めない家族の割合のほうが多いかもしれませんが、財産の状況によっては煩わしい手続きが必要になることもあります。次に紹介する具体例にあてはまる家族は、遺言を作成しておいたほうがよいでしょう。

なお、具体例は血縁関係が複雑ではない家族を想定していますが、血縁関係が複雑な家族は、より遺言が必要性が増すと思われます。

片方の親の判断能力が著しく低下している場合

まず、両親のどちらかの判断能力が著しく低下している場合、判断能力のある方の親は遺言作成が必須です。

仮に、判断能力のある親が先に亡くなり、著しく判断能力の低下した親が相続人になれば、その状況では遺産分割の手続きができず、「法定後見制度の利用」という手間が必要になるからです。

子が複数いる場合

相続人の子が複数いる場合、遺産分割が必要となります。親が「うちの子たちは揉めないだろう」と思っていても、相続したい財産について子同士の意見の折り合いがつかないことはよく起こります。

といっても、この場合は子同士というより、むしろ「子の配偶者」の意見との折り合いがつかないという方が正しいかもしれません。本来なら、子の配偶者は被相続人の養子でなければ相続人にあたらないため、相続には直接が関係ないはずです。

しかし、子の配偶者の意見に子が影響され、遺産分割を難航させるケースは往々にして存在します。そのため、財産が親のものであるうちに、誰に、何を、どのくらい相続するのか、遺言で指定することが重要です。

分割が難しい資産の割合が多い場合

「不動産を共有で相続した」という話は珍しくありませんが、実は不動産は分割が難しい資産の代表例です。こうしたケースの難しさは、相続人のうちの1人が「共有で相続した不動産を処分したい」と思っても、他の相続人の同意が得られなければ、処分ができないところにあります。

相続人同士の考えが違えば、当然意見の調整にも時間がかかるもの。ですから、不動産のように分割の難しい資産は、できる限り共有相続としないことを目指すべきです。

遺言がなければ、特定の相続人が単独で相続するという遺産分割にはなりづらいので、親が元気なうちに、不動産の行く末を考え、遺言を作成しておくとよいでしょう。