資産所得倍増プランの7つの柱
こうした状況に対して、さらなる環境変化が生じようとしています。岸田政権が打ち出した資産所得倍増プランでは、次のような7つの柱が提言されました。
①家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせる NISA の抜本的拡充や恒久化
②加入可能年齢の引上げなど iDeCo 制度の改革
③消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設
④雇用者に対する資産形成の強化
⑤安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実
⑥世界に開かれた国際金融センターの実現
⑦顧客本位の業務運営の確保
第4の柱には、次のような記載があります(※2)。
「雇用主としての企業は雇用者からの信頼度が高く、世界では、人々の幸福を目指すうえで心身の健康のみならず、企業を通じた経済的な安定を支援する取組が広まりつつある。我が国においても雇用主による雇用者の経済的な安定の向上に向けた取組を推進することが求められている」
第4の柱の趣旨が浸透していくことで、経済的な安定(ファイナンシャル・ウェルネス)が向上すれば、無関心層の減少にもつながると想定されます。
さらに、第5の柱には、次のような記載があります。
「金融経済教育を受けたと認識している人は7%に留まる一方、金融経済教育を行うべきと回答した者は7割を上回っており、金融経済教育を求める国民の声は大きい。さらに、資産運用を行わない理由としては、4割の者が「資産運用に関する知識がない」ことを理由として挙げており、こうした層に安定的な資産形成の重要性を浸透させていくため、金融経済教育を届けていくことが重要である」
DCの投資教育は第5の柱の金融経済教育にもつながるものといえるでしょう。
実際、投資信託協会の調査(※3)では、金融経済教育として「勤め先の企業で、確定拠出年金の導入/継続/教育を受けた」を挙げた人が14.2%で最も高くなっています。また、投資信託の保有者のうち「勤め先の企業で、確定拠出年金の導入/継続/教育を受けた」層は保有者のなかで最も多くなっています。
※2 内閣官房 新しい資本主義実現会議 公表資料(2022年11月28日)
※3「投資信託に関するアンケート調査報告書-2021年(令和3年)投資信託全般」一般社団法人 投資信託協会
中立的アドバイザーが教育の限界を超えるか?
DCの運営管理機関として、継続教育を実施した際に「限界」を感じることはしばしばあります。
一つは、運営管理機関であることに起因する「限界」です。DCの運営管理機関は、法令により「加入者等に対して、提示した運用の方法のうち特定のものについて指図を行うこと、又は指図を行わないことを勧めること」が禁止されています。そのため、加入者が知りたいであろう「自分に合った運用商品はどれなのか?」に直接的に踏み込むことはできません。ケーススタディを設定したり、各種のシミュレーションの使い方も提示しますが、加入者が自分自身のことに結びつけるのは難しいようです。
もう一つ感じる「限界」が、行動につながりにくい、という点です。継続教育実施後に、実際に運用商品の変更を実施したり、運用状況をチェックしたりする人はごく少数にとどまります。継続教育の内容自体に不満があったから、というわけではなく、実施時のアンケートでの満足度が高く、かつ「運用商品を見直したい」とアンケートに回答した人が一定数いた場合であっても、行動に移す加入者が圧倒的に少ないのが現状です。
こうした「限界」があるなか、資産所得倍増プランの第3の柱が意味をもってきそうです。
「中立的なアドバイザーの見える化を進めるとともに、そうしたアドバイザーにより顧客本位で良質なアドバイスが広く提供されるよう取り組んでいくことが重要である。そこで、令和6年中に新たに金融経済教育推進機構(仮称)を設置し、アドバイスの円滑な提供に向けた環境整備やアドバイザー養成のための事業として、中立的なアドバイザーの認定や、これらのアドバイザーが継続的に質の高いサービスを提供できるようにするための支援を行う」「具体的には、雇用者が中立的な認定アドバイザーを活用する場合に企業から雇用者に対して助成を行うことを後押しする。また、既に一部の企業で実施されている雇用者向けの企業内インセンティブ・ポイントプログラム(雇用者に対して資産形成や関連サービスへの活用可能なポイントを配布するもの)の横展開を図る。さらに、企業内に設置される雇用者向けの資産形成の相談の場において、中立的な認定アドバイザーを積極的に活用することを促す」(※2)