80歳以上は貯蓄ゼロも?リスク性商品の比率が高いいびつな構成

同レポートのもうひとつの注目点は、各種統計を参考にして、家計金融資産の偏在状況や家計ポートフォリオの状況について分析していることです。

まず「貯蓄の状況」として、年代別に貯蓄額の水準が示されています。気になるのは「貯蓄がない」と答えた人の割合で、定年を迎えた年代の60歳代で11.9%、70歳代で13.6%、80歳以上で14.2%もいます。水準もさることながら、年代が上がるごとに「貯蓄がない」という回答比が上昇している点にも注目したいところです。

なかでも80歳以上の14.2%という数字は、30歳未満の17.5%に次ぐ高さである点には留意しておく必要がありそうです。30歳未満の数字が高いのは、「収入が低いことと、貯蓄や資産形成に対する意識がさほど高くない」ということで説明できそうですが、60歳代から80歳以上にかけて数字が上昇しているのは、現役世代につくった貯蓄を取り崩して生活するうちに、80歳以上で貯蓄が底を尽いた人が結構な数でいるのではないか、と推察できます。なお、平均の貯蓄額は、全年代の平均値で1077.4万円。年代別だと、以下のようになります。

30歳未満・・・・・179.8万円
30歳代・・・・・・530.0万円
40歳代・・・・・・650.9万円
50歳代・・・・・・1075.4万円
60歳代・・・・・・1461.7万円
70歳代・・・・・・1255.6万円
80歳以上・・・・・1195.4万円

もう1点、気になるのは家計金融資産全体に占める商品種類別シェアです。男女別、年代別に、普通預貯金、定期預貯金、外貨建て商品、社内預金・財形、債券、MMF等、株式、投資信託、という8商品の比率を示しています。

このうち普通預貯金と定期預貯金を合わせた預貯金の比率を見ると、20代は92%が預貯金に集中しており、リスク性商品である株式と投資信託を合わせた比率は5.5%に過ぎません。

これを年代別に見ていくと、以下のようになります。

30代・・・・・・預貯金=82.9% リスク性商品=9.3%
40代・・・・・・預貯金=81.9% リスク性商品=10.5%
50代・・・・・・預貯金=74.7% リスク性商品=14.7%
60代・・・・・・預貯金=74.2% リスク性商品=19.6%
70代・・・・・・預貯金=72.9% リスク性商品=20.8%

最近は「人生100年時代」ということで、高齢になっても一定割合のリスク性商品で運用するべきだという意見も増えていますが、本来、積極的にリスクを取れるはずの若年層においてリスク性商品の保有比率が非常に低く、一方で年代が上がるほどリスク性商品の保有比率が高まるという、ちょっと面白い現象がみられます。

若年層が運用に対して保守的なのか、それとも投資に回すお金がないからなのか、そこは定かでありませんが、近年、株式投資にしても投資信託にしても小口化投資が可能であり、「収入が少ないから投資する余裕はない」というのは、理由になりません。

うがった見方をすると、「資産が少ない若年層に投資商品を勧めても収益にならない」と考えている金融機関が多いのではないかとも思えてきますが、仮にそうだとしたら、投資家教育の前に金融機関の意識改革こそが求められるのではないでしょうか。