不当にコストの高い投資信託の発生にもつながりかねない事態に
ちなみに、ここでよく言われるのは、投資信託を保有している個人が大好きな米国バンガードの事例です。「バンガードはもっと低率でインデックスファンドを提供しながら、しっかり経営を継続できている」という話ですが、バンガードの運用資産総額は2021年時点で7.2兆ドルもあります。1ドル=135円で計算すると、972兆円もの運用資産を持っているのです。
対して、日本の投資信託運用会社でトップになった三菱UFJ国際投信の運用資産総額は、10兆7017億円に過ぎません。
つまりバンガードは、これだけ巨額の資金を運用しているから、規模の経済が働いてコストを下げられるのです。コスト面だけを比較して、日本の投資信託会社にバンガードと同じことを求めるのは、酷と言うものでしょう。
そしてもうひとつの問題ですが、インデックスファンドの信託報酬率引き下げ競争に身を投じながら、投資信託会社の経営を維持するためには、別な収益源を確保する必要があります。
前述したように、投資信託会社の収益源は、ファンドの運用によって得られる信託報酬がほぼ唯一なので、超低コストのインデックスファンドをウリにするならば、他のアクティブファンドなどで高い信託報酬率を設定するしか方法がありません。インデックスファンドの受益者が信託報酬の引き下げを声高に言えば言うほど、不当に高いコストを負担させられる受益者を生む恐れもあるのです。
受益者がコスト負担をできるだけ低くしたいという気持ちは分かります。ただ、投資信託会社の経営の継続性を脅かし、かつ受益者間に不平等を生む恐れがある以上、信託報酬率の引き下げ競争は大きな問題をはらんでいます。
もちろん、それは信託報酬率の引き下げを求める受益者だけが悪いというわけではありません。投資信託会社のコミュニケーション不足もあると思います。投資信託会社は受益者に対して、信託報酬率の根拠をしっかり提示し、理解を求める努力をする必要があります。これは今後、投資信託会社にとって大きな課題になると思われます。