低すぎる信託報酬率に問われる投信ビジネスの持続性

投資信託で運用している個人受益者にとって、信託報酬などのコストは低いに越したことがありません。

投資信託のリターンは確定利回りではありませんし、運用の巧拙、投資対象が持つリスク・リターンによって個別ファンドのリターンはバラバラです。その中から自分のポートフォリオのリターンを年1%、確実に押し上げてくれるファンドを見つけるのは非常に困難というか、恐らく不可能に近いことです。

でも、信託報酬などのコストが低いファンドを見つけるのは、そう難しいことではありません。たとえば信託報酬率が1%低いファンドを見つけて、それに資金を投入すれば、1%高いリターンを得たのと同じ理屈になります。

このように考えると、確かにコストの安い投資信託は、資産運用をする個人にとっては「正義」の存在といっても良いでしょう。この考えが広まっていくなかで、信託報酬率の低いインデックスファンドを選ぶことが、個人の常識となりました。では、信託報酬率の低い投資信託は、受益者にとってメリットなのでしょうか。

投資信託を運用する投資信託会社やそれを販売する販売金融機関は公的機関ではなく、民間企業です。受益者が負担している信託報酬などのコストは、投資信託会社や販売金融機関で働いている人たちの給料になります。いささか極端な言い方かも知れませんが、一方的に信託報酬率の引き下げを求めることは、投資信託の運用・販売・管理で食べている人たちの生活を脅かすことになるのです。

これまで金融業界は情報の非対称性にあぐらをかき、たとえば投資信託であれば信託報酬という、リテラシーの低い個人には分かりにくいコストを高めにして、妥当とはいえない超過収益を得てきた歴史があります。

だから「高い信託報酬率は悪」という考え方が広まり、昨今のようにインデックスファンドを中心にした信託報酬率の引き下げ競争が激化したとも考えられますが、コストの引き下げ競争が激化すると、2つの問題が生じてきます。

第一に、投資信託ビジネスの持続性が損なわれる懸念があることです。特に、投資信託の設定・運用で食べている投資信託会社にとって、信託報酬は唯一の収益源といっても良く、ここの引き下げ競争が激化すると、いつか経営難に直面します。