100万円で投資シミュレーションしてみると?

今、100万円があったとして、これを

 A:全額「先進国債券」に投資した場合、
 B:全額「国内株式」に投資した場合、

を考えてみましょう。

先進国債券に100万円投資した「A」の場合、平均して年間平均2.6万円(期待収益率2.6%)の収入が期待できます。収益のブレ(標準偏差)は11.87万(11.87%)です。

一方、国内株式に100万円投資した「B」では、平均して年間平均5.6万円(期待収益率5.6%)の収入が期待できます。収益のブレ(標準偏差)はAよりも大きく23.14万円(23.14%)です。

さて、あなたが200万円を持っているとして、「先進国債券」と「国内株式」に100万円ずつ投資するとしましょう。つまり、A50%、B50%のポートフォリオを組むわけです。

このポートフォリオの期待収益率と収益のブレ(標準偏差)はどうなるでしょうか?まず、期待収益率を見てみましょう。

このポートフォリオから期待されるリターンは、

100万円×2.6%(先進国債券の期待収益率)+100万円×5.6%(国内株式の期待収益率)=8.2万円

このように、複数の資産に資金を配分した「ポートフォリオ」のリターンは、常に、個別資産の期待収益率の単純な足し算となります。つまり、「ポートフォリオ」のリターンは、“和”で計算できるのです。

一方、この「ポートフォリオ」の収益のブレ(標準偏差)は、どうなるのでしょうか。仮に、単純な和なら、先進国債券の収益のブレ11.87万円(11.87%)と、国内株式の収益のブレ23.14万円(23.14%)の合計、すなわち、35.01万円(35.01%)となります。

ところが、実際には、このポートフォリオの収益のブレを表す標準偏差は、次のように計算されるのです。

先進国債券の収益のブレ11.87万円の2乗(140.9万円)と、国内株式の収益のブレ23.14万円の2乗(535.5万円)の和(676.4万円)のルート(平方根)、すなわち、26万円。

つまり、「先進国債券」と「国内株式」の2つの資産からなるポートフォリオの収益のブレは、おのおのの資産の収益のブレの単純な合計(約35万円)よりも、9万円も少なくなるのです(なお、以上の試算では、「先進国債券」と「国内株式」の間の相関係数がゼロと仮定してポートフォリオの標準偏差を計算していますが、実際にはわずかながら正の相関が存在するため、この両資産の組み合わせの実際の収益のブレは、この試算結果よりは若干高くなります)。

このように、相互の値動きに関係のない(相関係数がゼロの)資産を組み合わせた「ポートフォリオ」の収益のブレは、単純な和ではなく、それより小さいルート(二乗和の平方根)に留まります。

すなわち、相互の値動きに関連の少ない(理想的には逆相関の)資産を「ポートフォリオ」に入れることによって、収益の変動幅を抑えた形で収益を増やしていくことができるのです。

――投資のリスクとリターンを改善するために、相関の少ない資産を組み合わせて、ポートフォリオを作ることが有効である欧米では古くから、「卵を1つの籠に盛るな」という格言があります。

――複数の籠に資産を入れておけば、そのうち1つがダメになっても、他のカゴの卵からやがて“ヒヨコ”が生まれ、にわとりに育つ

マーコビッツ教授は、古くから知られた分散投資のメリットを数学的に証明してみせたのです。

『金融のプロが実はやっている 最もシンプルで賢い投資の結論』

北村慶著
発行所 朝日新聞出版
定価 1600円+税