メンツからスジ論へ、当局にとって「苦情は世論」

投信業界は賢明にも「重要情報シート」の導入を早々に受け入れた。一方、販売会社、特に証券業界は仕組債の販売への影響などを懸念し、抵抗した。いわく「仕組債に販売手数料はない」「スプレッドは供給業者の正当な利ザヤだ」と。

1つひとつの理屈には聞くべきものがあるが、見逃せない点は彼らが金融庁の落とし前にケチを付けてしまったことだ。証券業界がこうした事情を理解して抵抗したのか、理解せずにしたのか不明だが、状況を楽観的に考え過ぎていたのではないか。

金融庁も自分たちのメンツのためだけに仕組債を叩いたわけではない。業界の抵抗に手を焼くうちに、仕組債の抱えるコスト(組成時、販売時のスプレッド)やリスク(ノックインの可能性と元本への影響)などの懸念が庁内で高まっていき、例えば投信に比べて商品の透明性が劣るとの判断に至った。

不運だったのは「重要情報シート」が提唱されて以降の2年間で仕組債のノックインが増え、金融庁への苦情も目立ちつつあったことだ。「苦情は世論」と受け止める当局にすれば、苦情の増加は仕組債を攻める大義名分を得たのも同然だ。

次に起きることは容易に想像できる。市場WGの資料には多様な商品を「業法の枠を超えて」比較できる書面を検討するとある。2022年9月に始まった金融庁主催の「顧客本位タスクフォース」の資料にも「個別商品に関する評価」として仕組債、ファンドラップと並んで外貨建て保険が記載されている。早晩、外貨建て保険やその販売のあり方がFDの観点から議論の俎上に載るとみられる。