原石を発掘する投資哲学は、企業調査で見出す参入障壁

では、何をもって利益が伸びる会社であると判断するのか。ここが、同ファンドの真骨頂でもある。共同運用主担当者のひとりで、前出のピーター・リンチ氏から直接薫陶を受けたジョエル・ティリングハスト氏は、愛称になっている「テンバガー(10倍株)」の原石を発掘する投資哲学のひとつとして、「流行に左右されず、独自の製品や特別なサービス、健全な財務を備えた強い事業に投資をしなければならない」ことを挙げている。ここで言う「独自の製品や特別なサービス」とは、参入障壁の高い製品、サービスを指している。フィデリティ投信の堀智文氏は、参入障壁について次のように言う。

「ハイテクというとGAFAなどプラットフォーマーのイメージが先行している一方、一時代前の技術領域であるハードディスクには新規参入者が少なく、ここで圧倒的なシェアを持っているSeagateは、目立たなくてもしっかりした参入障壁を築いていると考えられる。その株価のPERが現在8倍となれば、投資価値は非常に高い」。

投信営業部長の新村光秀氏は、「圧倒的なシェアを持つ、価格競争力を持つなど、誰もが分かりやすい参入障壁を持った企業の株価は、たいがい割高な水準まで買われてしまっている。いくら高い参入障壁を築いていたとしても、株価が割高では投資価値がない。私たちが言う参入障壁とは、誰もが見てすぐに分かる類ではなく、徹底して企業調査をしなければ見えてこない、地味だけれども、どこもそこを突き崩すことができない、決定的な参入障壁のことだ」と言う。だからこそ、北米、欧州、日本、アジア太平洋に360名ほど配置されている運用調査プロフェッショナルの存在が生きてくるのだ。

現在、同ファンドに組み入れられている銘柄数は、8月末現在で430銘柄にものぼる。ここ数年、アクティブファンドの組入銘柄数といえば、厳選投資の名のもと、30銘柄、あるいは20銘柄程度に絞り込んで投資するファンドが注目されてきた。
なかには「これだけ銘柄数が多いと、インデックスファンドと変わらなくなるのでは?」と疑問を呈する人も出てくる。しかし、それは杞憂に過ぎない。なぜなら、インデックスの採用銘柄と重複している組入銘柄数は100にも及ばないからだ。

組入銘柄の大半は、インデックスに採用されていない比較的マイナーな銘柄が中心となっている。だからこそ株価が割安であり、高く築かれた参入障壁によって、利益と株価の成長が期待される。かつ多数の銘柄に分散されることで、現在の金融引き締め局面において、株価の下落リスクを軽減させる効果も期待できる。

ここ数年続いたインデックスファンドブームに一石を投じることになるのか。アクティブ運用の雄であるフィデリティの実力が、まさに今、試されようとしている。