夫の「遺言」があれば……

佳代さんが義両親に送った手紙の「その後」ですが、義両親は代償分割についてはおおむね納得してくださいましたが、遺骨については「納骨堂」をも拒否してきました。そこでチームの弁護士が代理人として表に立ち、調停になってしまっています。

今回の佳代さんのトラブルは、お金そのものというより遺骨をめぐる感情的な争いが話を難しくしています。

悔やまれるのは、健司さんが元気な頃に遺言を書かなかったこと。若くて健康な人が遺言なんて書く気にはなれない気持ちは分かりますが、病魔に蝕まれて死が現実のものとして迫ってくると、理屈では分かっていても、遺言を書くことはもっと難しくなるのです。がんと闘う健司さんに相続について切り出せなかった佳代さんのように、家族は遺言書を書いてもらうことを望んでも、実際には声もかけられないのです。

子どものいない夫婦の遺言はとてもシンプルで、「資産のすべてを配偶者に相続させる」という一言で済みます。佳代さんのように遺骨でトラブルにならないためには、「祭祀承継者」についても「配偶者に」と指定しておいたほうがよいでしょう。遺言は署名押印などの要件を本やインターネットで調べてその通りに書いても、自筆証書遺言になりますが、できれば、司法書士に「リーガルチェック」をしてもらうことをお勧めします。

将来トラブルになりそうな要因があればなおさらのこと、しっかりとしたものを作っておくことが大事です。元気なときに、夫婦それぞれがこうした遺言を残すことで、将来の争いを回避することができるのです。
 

元気が出るお金の相談所所長・マネーセラピスト
安田まゆみさん

 

ファイナンシャルプランナー(CFP)。大学卒業後、雑誌編集者、外資系損害保険代理店を経て、96年からファイナンシャルプランナーとして活動を開始。「お金の貯め方」から老後の財産管理、民事信託、相続問題まで幅広いジャンルの相談に携わる。