なによりも誠意を見せることが大切

今回、夫の遺産は不動産と預貯金です。

不動産は、夫死亡により団信(団体信用生命保険)でローンはなくなりました。登記もいったんは佳代さんのものになりました。預貯金は、がん治療のためにかなり使ってしまい、200万円くらいしか残っていませんでした。

さらに生命保険金(受取人:妻)と、死亡退職金もありましたが、これらはいずれも妻である佳代さん独自のお金になりますので、遺産分割の対象にはなりません。

この場合の遺産分割は、佳代さんが夫の遺産すべてをいったん受け取り、その上で、すべての財産の1/3を義両親に渡すという代償分割になります。

マンションの評価額などを踏まえて、約1000万円強は義両親の法定相続分として、佳代さんから彼らに渡す必要がありました。では、この約1000万円をどうするのかということになります。

そこで、先述の生命保険金です。幸いにも健司さんは死亡保険金1000万円の生命保険に加入していました。繰り返しになりますが、この保険金については佳代さん独自のお金です。このことを伝えたら、「それを全額、義両親に渡しても構いません。それで縁を切ります」と佳代さん。義両親と直接話し合うなんてまっぴらとも言います。

ただ、「まっぴら」と言っているだけでは事態は収拾しません。佳代さんの誠意を見せることが、早期解決を図る上で重要です。私たちのチームで文面等のチェックなどのサポートをしつつ、佳代さんには遺産分割(代償分割)の提案をご自身で、ご自身の言葉で、義両親にあてて書いてもらいました。

また、遺骨の問題も「そのまま」はよろしくありません。佳代さん自身は、親が夫の遺骨を拝みに来ることはお墓に納骨できていない以上仕方のないことだと理解していました。ただ、佳代さんの「(義両親たちに)家に来てほしくない」という思いと「お骨を分けたくない」はそれを上回って強かったのです。

ここまでお読みになった方の中には「お骨を義実家に少し分けてあげたらよいのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、佳代さんのように遺骨を一部でも分けるのに抵抗感を覚える方はいらっしゃいます。

そこで私たちが勧めたのは、「納骨堂への安置」でした。しかも、その場所は義両親と自分の家の間で、交通の便の良いところ……こうした“譲歩”も早期解決には欠かせません。

遺産分割の手紙には、遺産分割の提案に加え、「(遺骨は)納骨堂に安置したいと考えています。そうすれば、いつでも健司さんに会えます」という趣旨も手紙に盛り込んでもらいました。