タイミングの恩恵 ─漠然とした金融不安の支えとなったDC─
当時私は運営管理機関の一員として企業へDCサービスを提供していましたが、事業主様の中にはこの金融不安を懸念される方もいらっしゃいましたし、私自身もサービス提供者としてこの出来事が影響はあるだろうと予想していました。しかし今振り返ってみると、当時DCというマーケットにおけるリーマン・ショック余波というのは、実はそこまで大きく影響を受けなかったというのが当時の現場の印象です。
その理由は2つありました。1つは『適格退職年金の廃止に伴う移行期間であった』事。もう1つは『DCが金融不安の受け皿となれた』事が挙げられると思います。
まず『適格退職年金の廃止に伴う移行期間であった』事ですが、当時企業の年金制度として『適格退職年金』という制度が存在しました。この制度は、平成24年(2012年)3月31日をもって廃止が決定していたため、これまで適格退職年金を導入していた企業は、確定給付企業年金もしくはDCへの加入移行を余儀なくされており、当時その移行期間に該当していました。
そしてもう1つの『DCが金融不安の受け皿となれた』事。こうした背景の中、DCを採用した企業が増えた理由としてDCには購入する商品種が複数あることが挙げられます。前述の通り、リーマン・ショックを発端に株価は大きく下落し、消費者の心情的にも金融不安から自己財産の守り(減らしたくない)の意識が強く働く中、経験がない従業員が運用するのはリスクが大き過ぎると懸念されるご担当者様もいらっしゃいました。
しかしDCには『元本確保型』商品があります。リーマン・ショック発生当時、私が在籍していた運営管理機関が提供していたある元本確保型商品の平均利回りは約1.125%と今現在の利回りと比べて良く、事業主が想定する運用利回りを満たしていた点を踏まえ、元本確保型商品を選択・運用する事で従業員が損をしない資産形成ができるとして、ある意味、当時の金融不安を抱える従業員の皆さんの受け皿として機能したと言えます。
事実、当時私が所属していた運営管理機関はじめ競合他社も、この元本確保型商品を前面に打ち出したDCサービスを展開しており、当時の加入者ポートフォリオは全世代において元本確保型保有率が圧倒的だったのを覚えています。