後継者不足に悩む中小企業の一方で、M&A仲介業者の業績は好調

では、どうしてここまで後継者不足に陥っているのでしょうか。理由はいろいろあります。昭和の時代において、自営業の家庭に生まれた子供は大人になった時、家業を継ぐのが当たり前でした。これは、中小企業庁の「事業承継を中心とする事業活性化に関する検討会」の第1回目(2016年4月)で、事業承継方法の変化について言及した際に用いられた数字を見ると明らかです。1980年代に行われた事業承継では、92.7%が親族内承継でした。

ところが、時間の経過と共に親族内承継の比率はどんどん低下し、近年においては、親族内承継が34.3%まで低下しているのです。すでに、自営業の家に生まれた子供が、親から事業を引き継ぐ時代では無くなったことを、この数字は物語っています。

このように、親族内承継の割合が減った一番の理由は、やはり少子化でしょう。かつてのように子供が4人、5人もいれば、誰かが家業を引き継ぐことも十分に考えられましたが、今は一人っ子家族が増えており、その子供が家業を引き継がないとなると、その途端に後継者難に陥ります。

もちろん、子供が引き継がないのであれば、会社の社員から後継者を選ぶという手もありますが、問題は後継者に指名された人間が、経営者が持っている株式を全額買い取れるだけの財力があるかどうかという点です。

また、中小企業の場合、会社が抱えている銀行借入に、経営者の個人保証が付いているのが普通です。したがって、後継者が会社の経営を引き継ぐ場合は、その個人保証まで引き受けざるを得なくなります。果たして、そこまでの負担を背負ってまで、経営的に脆弱な中小企業の経営を引き受ける人物が、その会社内にいるのかということになると、そこは大いに疑問です。

昨今、日本国内で企業のM&A(合併・買収)の件数が右肩上がりで増え続けているのは、こうした事情があるからです。M&A情報を提供するレコフデータによると、リーマンショック前の2006年のM&A件数は2775件で、2011年は1687件まで落ち込みましたが、その後は順調に回復し、2017年には3000件を超えました。

コロナ禍で経済が停滞した2020年はやや落ち込みましたが、トレンドとしては右肩上がりが続き、2021年の件数は4250件を超えています。後継者難の中小企業が、会社を売却しているのです。現在、M&A仲介会社で株式を上場している企業は5社あります。その大半が順調に業績を伸ばしている背景には、中小企業の後継者難が背景にあることがいえるでしょう。