事業の将来性とは裏腹に、後継者不在で廃業へ

大企業であれば、後継者が優秀かどうかの問題はありますが、基本的に後継者不在ということにはなりません。後継者不在の問題を抱えているのは、中小企業においてです。

中小企業庁の「事業承継マニュアル」によると、廃業を予定している中小企業のうち約3割は、廃業の理由として「後継者の確保が難しい」という点を挙げています。さらに言えば、廃業を予定している企業のうち4割超が、「今後10年の事業の将来性がある」と回答しているにも関わらず、廃業を選ばざるを得ない状況にあります。

東京商工リサーチの調査によると、休廃業や解散した中小企業のうち、6割は売上高当期純利益率がプラス、つまり黒字だったとされています。黒字なのに後継者がおらず、廃業を選ばざるを得なかったのです。

これは経済的にも非常に大きなネガティブ要因です。黒字企業は基本的に法人税を納めています。中小企業のうち6割が黒字なのに廃業しなければならなかったということは、そこから得られていた法人税が無くなることを意味します。経営者の高齢化と後継者難が今後も続けば、廃業に追い込まれる中小企業は今後も増え続け、結果的に法人税収の減少につながっていく恐れがあるのです。

また、中小企業の廃業は、日本経済全体にも大きな影響を及ぼします。少し古い数字になりますが、経済産業省と中小企業庁が2019年に発表した試算では、中小企業の廃業によって、2025年までに約650万人の雇用が失われるのと同時に、約22兆円ものGDPが失われるということです。日本のGDP総額は540兆円程度なので、実に4%ものGDPが失われる計算になります。すでに2022年ですから、今の日本経済は約22兆円ものGDPを喪失する過程にあると言えるでしょう。