寅(とら)年の相場格言では「寅千里を走る」と言われ2022年の株式市場は上昇傾向と期待されるが、心穏やかではないのが富裕層だ。2022年度の税制改正大綱では、株式を売却したときに発生する利益など金融所得の課税強化は先送りされたが、2023年度以降も議論の検討対象になっている。岸田文雄首相は「成長と分配による好循環」を掲げており、夏の参院選を通過すれば一気に見直しに着手するのではないかとの見方もある。
給与所得と金融所得で異なる税率。年間所得1億円が議論のテーマに
金融所得課税とは、株式の譲渡益や配当金といった金融所得にかかる税金のことをいう。所得税15%と住民税5%を合わせて計20%の税率が一律で適用されている。金融所得には一律で20%が課されることから、株式など金融資産をたくさん保有する高所得者ほど税負担が少なくなる構造が生まれる。どれだけ多額の株式売却益を得たとしても税率は20%しかかからない。それが富裕層優遇だと批判されるゆえんだ。
一方、税計算の基となる課税標準額が大きければ大きいほど高い税率となるのが累進課税制度。日本では所得税、相続税、贈与税が累進課税制度にあてはまる。給与所得は累進課税のため、所得が多い人ほど多額の税金を支払わなければならない仕組みとなっている。累進課税には、高所得者に富を集中させずに所得を再分配する機能があり、格差の是正にもつながるとされる。
所得税の最高税率は課税所得4000万円以上に対して45%が設定されている。高額所得者がどんなに多く稼いでも「半分は税金で消えてしまう」と口にするのはこの税制度があるからだ。
年間の所得額が増えるにつれて、給与所得が多く金融所得が少ない人は所得税の負担率が上がってしまう。逆に給与所得が少なく金融所得が多い人では、所得税の負担率が下がることになる。金融所得課税が20%と一律であるため、年間所得が1億円を超えると所得税の負担率が低下する「1億円の壁」が発生する。
高所得者ほど株式や不動産など給与所得以外にも収入源を持つ場合が多い。そうなると株式などの売却益や配当金といった金融所得が全体の所得額に占める割合は当然ながら高くなる。所得税の負担率が低下する状況がみられるため、これを是正して、税負担の公平性を確保する必要があるとされている。