注目すべきは23年度の税制改正大綱
2022年度の税制改正大綱では見送られたが、金融所得課税強化については検討事項として引き続き議論が行われ、2023年度の税制改正大綱でどう決着するかが注目されている。税制改正大綱は、与党の税制調査会を中心に翌年度以降の税制改正の方針をまとめる。これが税制に関する法改正の原案につながっていく。
毎年12月下旬に翌年度分の税制改正大綱が閣議決定される。政府はこの大綱をもとに税制関連法案を作成し、年明けの通常国会に提出する流れだ。いったんは見送られたものの検討事項として議論は続くため、富裕層や証券関係者は注視している。
2022年度の税制改正大綱には「高所得者層において所得に占める金融所得等の割合が高いことにより、所得税負担率が低下する状況がみられるため、これを是正し、税負担の公平性を確保する観点から、金融所得に対する課税のあり方について検討する必要がある」と明記された。また一般投資家については「投資しやすい環境を損なわないよう十分に配慮しつつ、諸外国の制度や市場への影響も踏まえ、総合的な検討を行う」としている。
株式投資は、60代、70代、80代といった高齢の富裕層が中心と思われがちだが、20代、30代の若年層にも投資体験は広がっている。資産形成層と呼ばれる若い世代の間でも、つみたてNISAやiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)といった制度が浸透しつつある。本来であれば運用益に対して一律で20%課税されるが、非課税枠が設定されていることなどが制度の利用促進につながっている。
さらに少額から投資できるといったメリットもあり、将来への不安を持つ若者や新型コロナウイルス感染症の影響による巣ごもり需要の一環で投資を始める人が増えたとされている。少額投資であれば得られる利益も限られる。税制改正大綱には「一般投資家が投資しやすい環境を損なわないように検討する」との記載もあることから、実は若年層の投資機会を奪うようなことになるとは考えづらい。
とはいえ、日本では米国のように株式投資が一般化しておらず、金融資産の多くが預貯金に回っている。実際日本における個人の金融資産は約2000兆円に上るが、そのうち1000兆円が現預金で、株式などの比率は低い。税制優遇制度であるつみたてNISAなどを推進して、若年層の投資機会の創出を推進してきた証券業界などでは、金融所得課税強化の議論がそうした新しい流れに歯止めをかけてしまうのではないかと危惧する。