(2) 定性評価情報
冒頭でも述べましたように、入手すること自体がそもそも困難な評価機関による定性評価情報ですが、入手できたとしても、そのまま信頼しても良いとは思えません。評価機関の評価体制の充実度や定性評価に対する考え方の違いにより、その深掘りの度合いも大きく異なります。また評価機関のビジネス上の事情により、運用会社に忖度していると思われる場合もあります。

評価機関による定性評価情報の付加価値の大小や客観性は、以下の6つの要素から判定できると考えます。できる限り多くの項目に当てはまる評価情報を用い、逆に当てはまらない評価情報は参考としないことが重要でしょう。

中でも4点目のマイナス面の指摘の有無は、評価レポートを見るだけで、評価機関/アナリストの調査分析の深さや中立性の判定ができるので非常に有効と考えます。どんな優れたファンドでもパーフェクトではありません。定性評価を行う上でマイナスと考えられる点が必ずあるはずです。徹底した調査分析を行った評価機関やアナリストしか、運用者自らも読む可能性のある評価レポートの中で、運用者も納得するマイナスポイントを指摘することはできません。また、真に中立的な立場にあって運用会社に忖度する必要がない評価機関やアナリストでなければ、やはりマイナス面を指摘することは困難です。

・ 定性評価の目的やレーディングの定義が、明快に説明されているか? 「ファンドの品質」のような漠然とした言葉で説明されてはいないか?

・ 説明されている定性評価の手法が上記の目的の達成に資すると考えられるか?

・  評価対象ユニバースの広さ(対象ファンド数に対して十分な評価体制(アナリスト数(注2))を有しているか?  筆者の経験では十分な調査分析を行うためには、よほど効率的な手法を採用しない限り、アナリストあたり30−40ファンドが限界と思われます。

評価結果の説明の中で、対象ファンドのプラス面のみならずマイナス面も合わせて指摘しているか?

レーティングを付与している場合、対象ファンドの分布が上位レーティングに集中していないか?

評価結果の付加価値の大きさを、例えば評価後のレーティング別パフォーマンスのような形で、検証し公表しているか?

(注2)アナリスト数については各評価機関のホームページなどで公表されている場合もあります。また評価機関が(社)日本投資顧問業協会に登録されて場合には、その投資運用会社要覧の中で開示されていることもあります。

(3) その他:ファンド表彰の結果
日本で行われている主要な5つのファンド表彰(注3)のうち、一部であっても定性評価に基づく表彰は1つのみであり、しかもその表彰は定量評価と組み合わせた総合評価によるものです。残りの4つのうち3つは過去の運用実績の定量評価のみによる表彰、またもう1つは審査員の投票で決定する表彰です。受賞ファンドの受益者の方や運用会社/運用者にとっては大変嬉しい受賞ではあるとは思います。しかしながら、定性評価の要素の希薄なこれらのファンド表彰の結果は、これからファンドを選ぶ方には有意義な情報とは考えられません。

(注3) R&Iファンド大賞、一億人の投信大賞、投信ブロガーが選ぶFund of the Year、モーニングスターFund of the Year、リフィニティブ・リッパー・ファンド・アワード・ジャパン(以上五十音順)の5つのファンド表彰の選定基準を主催社HPなどで確認。

今回は、“優れた”アクティブファンド選定において参考にしたい定量評価と大変重要な定性評価を行うために、評価機関による評価情報を利用する選択肢についてお話ししました。評価情報はどこで入手できるのか、また入手した評価情報の精度や信頼度はどうやって確認するのかについても筆者の考えをご説明しました。

定量評価情報は、様々なところで入手できますが、ベンチマーク比較では指数選定の精緻さが、ユニバース比較においては分類の緻密さが、それぞれ信頼度の分かれ道になります。

定性評価情報は、一般の投資家の方が無償で入手するのは非常に困難であり、入手できる可能性が高いのは、取引口座をお持ちの金融機関へのリクエストであると思われます。また定性評価情報の付加価値や客観性を見極めるためにはいくつかのポイントがあるものの、最も有効なチェックポイントは、レポート中の評価結果解説でそのファンドのマイナス面を指摘できているかどうかであると考えます。

ファンド選定上重要性は高いものの、入手が困難な評価機関による定性評価情報ですが、各評価機関はその精度を高めるために様々な工夫や努力をしています。次回から数回に渡り「評価機関によるアクティブファンドの運用力評価」についてお話しします。