年末の一大行事となっているベートーヴェンの「交響曲第9番」の演奏と合唱。そのベートーヴェンの誕生日には、12月15日、16日、17日の3説がある。ただ、17日に洗礼を受けていることから、前日の12月16日を誕生日とする説が有力だ。
これを聴かないと正月を迎えられない人も多い、ベートーヴェンの「交響曲第9番」
何はともあれ、第4楽章の合唱。まずバリトンの歌手が立ち上がり、「ああ友よ。このような音楽ではない」と歌いだす場面では、感情の高まりを禁じ得ない人も多いはずだ。さらに「もっと心地よく喜びに満ちたメロディーを歌おう!」「歓喜だ!(フロイデ!)」に続いて『歓喜の歌』が始まる。いつ聴いても心が揺さぶられる冒頭部分だ。
筆者も10年ほど前に、年末に第九を合唱する機会があるから参加しないかと、知人から誘われた。残念ながら所用もあり断ったが、今は後悔しきりだ。あの歓喜の歌を、声を限りに歌えば、どれほどリフレッシュされることか――!
年齢を重ねると、筋トレ、脳トレが推奨されるのが常だが、声トレも必要だとする専門家は多い。その観点からも歓喜の歌の合唱は、シニア層には意義のある機会だろう。
この『歓喜の歌』のメロディーはクリスマスソングとともに、日本の年末の音楽風物詩として定着している。第二次世界大戦後の1947(昭和22)年に、日本交響楽団(現在のNHK交響楽団)が年末に3日連続の第九コンサートを実施し、絶賛を博したことが発端だ。特に第4楽章で、演奏する人、歌う人、聴く人が一体となって、『歓喜の歌』に続き、友愛や勇気をたたえる絶唱に酔いしれるひとときは、新しい年への期待にもつながる。
ところが、この年末の第九の演奏は、日本よりも早く第一次世界大戦後の1918年にドイツで始まっている。平和を希求する声が高まる中で、ドイツのライプツィヒで年末の演奏として初めて実施され、その後も引き続き名門オーケストラのライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団が演奏を継続している。
しかし、この音楽界の人類遺産ともいうべき第九には、あるジンクスがしばらく存在した。ベートーヴェンが「交響曲第10番」の作曲に取り組む最中に世を去ったことが端緒だ。ドヴォルザークも、「交響曲第9番」の『新世界より』を完成した後に天国へ召され、ブルックナーも「交響曲第9番」を作曲中に他界する。マーラーはこのジンクスを相当に恐れたようで、8番を作曲した後、番号のない交響曲『大地の歌』を発表したほどだ。安心したのか、その後第9番を作曲したが、第10番を作曲中に永眠している。