経済面での不遇の中、音楽家の地位向上にも先導的な役割
1814年に友人のブルンスヴィック伯爵に宛てた手紙で、演奏会への参加を呼びかけつつも、こうした演奏会の開催で貧乏から抜け出すべく努力していることを吐露している。あわせて、約束された年金が、まだ一文も手元に届いていないことを嘆いている。
17、8世紀のヨーロッパでは、芸術家や科学者あるいは哲学者に国王などが年金を与えるのが一般化していた。デカルトやアダム・スミスなども恩恵に浴した。ベートーヴェンが華々しく活躍する19世紀になると、貴族たちも芸術家を自分の街にとどまらせるために年金を与えるようになる。
ベートーヴェンがウィーンにとどまることを条件に、3人の貴族が現在価値で400万円相当の年金を出すことを、1809年に約束する。しかしその後、そのうちの1人が落馬して死亡したことにより、支払いが延び延びになってしまう。上記の手紙は、5年たっても約束の年金を手にできない辛さを書きつづったものだ。
しかしその後、貴族などに仕える従来からの音楽家の生活様式から、貴族らと対等に契約を交わし、経済的に自立する作曲家を仲間とともに目指す。こうした点でも音楽の世界に変革をもたらした作曲家といえる。
執筆/大川洋三
慶應義塾大学卒業後、明治生命(現・明治安田生命)に入社。 企業保険制度設計部長等を歴任ののち、2004年から13年間にわたり東北福祉大学の特任教授(証券論等)。確定拠出年金教育協会・研究員。経済ジャーナリスト。
著書・訳書に『アメリカを視点にした世界の年金・投資の動向』など。ブログで「アメリカ年金(401k・投資)ウォーク」を連載中。