運用プロセスにおけるリスク管理の評価

リターンのバラツキの抑止力としての評価

運用プロセスの評価 : リスク管理

運用プロセスの中でのリスク管理の重要性は言うまでもありません。ただし、投資におけるリスクとは単にマイナスリターンとなる可能性を指すのではありません。リスクとは平均値例えば期待リターンからプラス・マイナス両方向へのバラツキの大きさを指します。負け過ぎのみならず、勝ち過ぎも将来の負け過ぎに繋がるためリスクと考えます。そこで、運用力評価におけるリスク管理も、プラス・マイナスいずれの方向でも行き過ぎを抑止する考え方や手法として評価します。

リスク管理は、その有効性と投資手法との適合性の2つの観点から評価します。

(13)  リスク管理 : 有効性

リスク管理の手法の説明を受けても、それがうまく機能するかどうかは、外部の人間からは判定が難しいでしょう。また、理屈では機能するように思えても、本当のところは厳しい市場環境下で実施してみるまでは分かりません。そこで、リスク管理ではやり方の優劣を評価するのではなく、その効果を評価します。リターンやポートフォリオの断面、あるいは組入れ銘柄の売買頻度や金額などが、プラスあるいはマイナス方向に、思っていた以上にバラツキがないかどうかで判定します。

判定基準
・リターンが思っていた以上に良過ぎたり悪過ぎたりしていないか?
・特定の国、市場、業種、銘柄などに想定以上に大きなウエイトで投資していないか?
・組入れ銘柄数が思っていた以上に多すぎないか?少なすぎないか?
・ポートフォリオの入れ替えのための売買の金額がファンドの資産規模に比べて大き過ぎないか?(注1)

(注1)ファンドの売買金額並びに純資産金額に対する売買回転率は半期ごとの運用報告書に記載されています。

・ポートフォリオの入れ替え(例:上位銘柄の変化)が思っていた以上に激しくはないか?

(14)  リスク管理 : 投資手法との適合性

一方で、アクティブファンドの目的はリスクを取ってより高いリターンを目指すことですので、行き過ぎたリスク管理によって必要なリスクが取れなくなってしまうことも大きな問題です。あくまでもそのファンドの運用目標や手法に適したリスク管理手法が求められます。例えば、株式運用において銘柄選定で勝負するファンドであれば、特定の国や業種に偏ってしまうリスクをできる限り排除する一方で、銘柄数や銘柄ごとのウエイトではある程度の大きさまで許容する方法も考えられます。

判定基準
・投資手法上意図していないリスクをできる限り抑制する方法を採用しているか?
・逆に意図しているリスクには十分な許容幅を設けているか? 

 運用プロセスにおける情報開示の評価

運用力評価の前提条件および運用会社や運用者/チームの自信の表れとして情報開示を評価

運用力と情報開示は直結しません。しかしながら、情報開示の方法や内容から運用力に対する自信が垣間見えると考えます。

(15)  情報開示 : 積極性

必要な情報が開示されないと、運用力評価を行っても、高い評価はできません。運用会社や運用者/チームがそのファンドの商品性や運用力に自信を持てば持つほど、積極的にしかも分かりやすく情報開示を行う傾向があります。

判定基準
・法定開示資料を含む標準的な形式以上に追加的な情報開示を行っているか?
・開示されている情報から 対象ファンドの投資哲学・戦略・手法が理解出来るか?
・開示方法(例えば特設サイトの開設や販売促進資料の作成)や内容などから運用会社や運用者/チームの積極性が感じられるか?

(16)  情報開示 : 投資手法との適合性

対象ファンドの運用手法に適した情報の開示が行われないと、そのファンドの運用力を正しく理解することはできません。例えば、資産配分を機動的に変更するバランス型ファンドでは、ある程度の期間遡ったり市場環境激変時を取り上げることで、過去の資産配分の変化と変化させた理由を説明してもらうことが重要です。また、銘柄選択に注力する株式ファンドでも、過去の上位銘柄の変化とその理由について同様のことが言えます。

判定基準
・ファンドの投資手法を理解するために必要な事象について情報開示が行われているか?
・その開示情報から、過去の投資判断の成功/失敗例やその理由及び結果について理解できるか? 

(17)  情報開示 : 一貫性

開示する内容や開示項目の定義等が途中で変更になっては、そのファンドの正確な姿がわかりません。例えば、上記の資産配分を機動的に行うファンドで、資産区分の定義や方法が変更になった場合には、投資戦略や手法の連続性が分かりにくくなってしまいます。

判定基準
・正当な理由なしに、開示情報の項目や定義が変更されていないか?
・その結果 、投資戦略や手法の一貫性が確認不能とはなっていないか?

これまで前編と後編の2回に渡って、ご自身でアクティブファンドの運用力を評価される場合の現実的な選択肢として、私が考える手法をご提案してきました。しかし、「想像以上に手間がかかるな」あるいは「開示情報が少ないファンドが低い評価にとどまってしまう評価方法には納得できない」と思われる方もいらっしゃるでしょう。

アクティブファンドの定性評価は、ご自身で手掛ける以外にも、評価機関の評価結果を利用するという選択肢もあります。次回は、評価機関によるファンド評価情報を利用する方法と利用の際の留意点についてお話しします。