運用プロセスにおける投資哲学・戦略・手法の評価

より高いリターンを生み出す力の源としての投資哲学・戦略・手法

運用プロセスの評価 : 投資哲学

(6)  投資哲学 : 明快度/徹底度

投資哲学とは「どこで他の投資家よりも高いリターンを挙げるのか?」および「なぜ自分にはそれができるのか?」に対する答えです。プロとして報酬をいただいて投資する以上、能力の土台となる哲学に強い信念を持つことが重要でしょう。投資哲学は、誤解なく理解されるように、明快な表現で説明され、少なくとも運用会社内で認知/理解されていることが望まれます。ブティック型の運用会社では会社で統一された考え方が共有されることが多いですし、投資対象や性格の異なる複数の商品を運用する運用会社では、商品ラインごとに異なる哲学を掲げるところもあると思います。ここでは評価対象の投資信託が運用の基礎とする投資哲学を念頭に判断します。

判定基準
対象ファンドのアクティブ運用が拠り所とする投資哲学が
・明快に運用会社内に示され浸透しているか?
・対象ファンドの運用にも徹底されているか?
・同じ運用者やチームが運用する他のファンドにも活かされているか?

例えば、あるファンドの運用会社が、自分達の能力があれば、他の投資家よりも早くあるいはより多くの成長性の高い企業を探し出すことができ、それによって他の投資家を上回るリターンを挙げることができると考えるとします。この哲学がその運用会社の中で共有され浸透していれば、より高いリターンを挙げるために、できるだけの経営資源を成長企業の発掘に振り向けるでしょう。また成長企業の発掘に役立つ独自のノウハウにも磨きをかけるでしょう。さらに同じ哲学に基づく運用が他のファンドでも行われていれば、経営資源の集中やノウハウの開発改良がさらに徹底されることが期待されます。

運用プロセスの評価 : 投資戦略

投資戦略は、投資哲学を推し進めるための作戦です。同じ哲学に基づく投資を実行するには、さまざまな方法が考えられます。例えば、前出の運用会社が成長企業の発掘を徹底するためにはいくつもの方法が考えられます。人海戦術でできる限り多くの企業を調査する、あるいは独自の方法で効率的に調査対象を絞った上でより詳しく調査する、たとえば数値モデルなど何らかの方法でその調査を近道する…。

(7)  投資戦略 : 現体制での実行可能性

いくら優れた戦略/作戦でも実行できなければ劣悪な戦略/作戦です。前出例の運用会社が、他の投資家よりも多くの企業を調査するという戦略を実行するためには、それだけのリサーチ量をこなせるだけの多くのアナリストを抱えるチーム、あるいはアナリスト数に依存しない効率的な方法を有していることが必要でしょう。加えて今後強化する準備や計画も求められるでしょう。

判定基準
・対象ファンドの運用哲学が、現在の経営資源(ヒト・モノ・カネ等)で実現可能なやり方で、実行に移されているか?
・その実行に費やされる経営資源をさらに増強する準備/計画があるか?

(8)  投資戦略 : 経済合理性

対象ファンドの投資戦略が現体制で十分に実行可能であっても、その戦略の実行が他の投資家よりも高いリターンに繋がると考えられなければ意味はありません。学術的な調査あるいは他の統計的な手法でその傾向が示されていることが理想ですが、少なくとも論理的に考えれば好ましい結果をもたらすと考えられることが必要です。前出の例では、より多くの企業を独自に調査することが、より高いリターンに繋がるということを証明することは困難かも知れません。しかし、より多くの企業調査が、有望企業を早期に発掘できる確率を高めるとは考えられるでしょうし、その結果が高いリターンをもたらすとも考えられるでしょう。

判定基準
・採用している投資戦略がより高いリターンに繋がることが学術的あるいは統計的に示されているか?
・少なくとも高いリターンに繋がることが期待できるか?

運用プロセスの評価 : 投資手法

投資戦略に基づいた投資判断を行い投資行動に繋げるのが投資手法です。その付加価値が運用パフォーマンスを左右するため、複数の観点から今後の有効性を評価します。

(9)  投資手法 : 独自性/模倣の困難さ

投資で他の投資家より高いリターンを挙げるためには、他の投資家とは異なる手法で投資判断を行い、異なる投資行動をとる必要があります。しかし独自の手法が他の投資家に模倣されはじめると、その超過収益の源泉は希薄化し、最終的に消滅してしまいます。独自の手法の効力を長続きさせるためには、他の投資家には容易に模倣されないことが重要です。模倣を防ぐには手法自体を機密にすることも重要ですが、そればかりではありません。前出例のように多くの企業の調査のためには大きなリサーチチームつまり多額の資金が必要であれば、同じ手法を他者が採用することは容易ではないでしょう。あるいは、超長期の時間軸で行う割安株投資など、非常な忍耐力が必要となるような投資手法も同様に実行することは困難でしょう。

判定基準
・採用する投資手法は他者の手法と比較して独自性が強いか?
・他者による模倣や実行は困難か?

(10) 投資手法:得意分野への集中度

筆者が25年に及ぶ投資信託の分析評価経験の中で出会った優れた運用者や運用チームには、一つの共通点がありました。それは、自らの運用プロセスの中で得意とする部分と不得意な部分を正しく認識して、得意な部分に経営資源(ヒト・モノ・カネ)を集中させることができる点です。例えば前出の企業調査数の最大化により投資成果の維持向上を目指す運用会社では、その競争力をさらに強化するために、アナリスト増員のための新規採用や、アナリスト候補への教育研修などにはできる限りの経営資源を振り向けるでしょう。

判定基準
・自らの競争力の源泉を正しく認識しているか?
・その競争力の源泉をさらに強化するために経営資源を集中させているか?

 (11)  投資手法 : 一貫性/継続性

優れた投資手法であればあるほど、その手法を継続することが長期的な好パフォーマンスにつながります。また、その継続を促す仕組み等があれば、さらに信頼度が高まります。前出の運用会社の例では、数多くの企業調査を継続することで、長期に渡り優れた運用成績を挙げる可能性は高まるでしょう。また、その件数を維持増加させるために、各アナリストには企業調査件数の目標を与え、調査終了後一定期間内での分析レポートの作成を義務づけることで、常に多くの企業の調査が行われるような枠組みを設けるかも知れません。

判定基準
・独自の投資手法を中長期に渡り継続できているか?
・その継続性をより確かなものにするために、ルールやペナルティあるいはインセンティブを設けるなどの仕組みを有しているか?

 (12)  投資手法 : 改善努力

どんなに優れた投資手法も完全ではありません。またその効力も時間の経過とともに低減していく可能性があります。自らの手法で改善が必要な部分を正しく認識し、その改善に取り組むことは評価に値します。前出の運用会社の例では、数多くの企業調査の結果に基づき企業間の比較を容易にするために、調査項目やレポート形式の統一や、調査結果を社内の全ての運用者やアナリストと共有するためのシステムの改良などに取り組むことも考えられます。

判定基準
・自らの運用手法の中で改善が必要である点を正しく認識しているか?
・その改善にこれまで取り組んできたか?  現在も取り組んでいるか?