国内に6000本近くある公募投資信託だが、それぞれのファンドには一言で語りつくせない歴史と物語がある。新たに始まる「投信人物伝」では、投信業界のキーパーソンにロングインタビューを行い、それぞれの投信に込めた思いに迫ります。

連載の初回には、「積立王子」の異名を持つ独立系の投信直販会社「セゾン投信」創業者で会長CEOの中野晴啓氏に、創業当時の思いや積立投資の重要性、セゾン投信が目指す未来の姿を伺いました。

もともとは金融と違う世界を目指し、憧れのセゾングループに

私はもともと投資信託業界で仕事をしようと思っていたわけではありません。就職活動をしていた当時の米国経済は、ドル高を背景にして今とは比べ物にならないくらい低迷しており、米国、イギリス、フランス、ドイツ、そして日本という5カ国の財務大臣ならびに中央銀行総裁がニューヨークのプラザホテルに集まって、1985年にドル高是正に合意しました。後に「プラザ合意」と呼ばれるようになった歴史的な会合です。

これを機に日本円は大きく上昇し、さらに超低金利政策によってバブル経済が起こりました。私が就職活動をしていたのは、そういう時代です。バブル経済で株価は大きく上昇し、私の周りでは当時、花形商売だった銀行や証券会社などの金融機関を目指す人が大勢いました。他の業種に比べて圧倒的に給料が良かったからです。

セゾン投信創業者で会長CEOの中野晴啓氏

そのなかで私が目指した就職先は、西武百貨店を中核とするセゾングループでした。「周りが皆金融を目指すなら、俺は全く違う世界に行ってやる」といった天邪鬼的な性格もあったのですが、何よりも当時、セゾングループを率いていたカリスマ経営者、堤清二氏に強く憧れていたからです。

でも、私はセゾングループに入って何をやりたかったのだろうか。このインタビューを受けるにあたって、そんなことを思い返してみたのですが、実は何も無かったというのが正直なところです。何となく当時、セゾングループは最先端の文化・情報発信企業という華やかなイメージがあり、「そんなところで働いてみたい」という程度のことだったのかもしれません。

入社式の翌日、新入社員の配属先が発表されました。私の配属先は、当時のセゾングループに複数社あったファイナンスカンパニーのひとつ。周りの人たちが皆、金融を目指すから他の業種に行ったのに、配属先は金融ど真ん中の会社だったのです。