「資金繰り」が企業を破綻させる理由
読者のなかには、山一證券が「自主廃業した」という点が気になる人がいるかもしれません。事業継続は困難だったとはいえ、山一證券はあくまで自主的に営業の停止を選択したのです。
そもそも、企業はどうして倒産するのでしょうか? 簿外債務は、帳簿に載らないだけの実質的な負債といえるため、山一證券が大きな負債を抱えていたことは想像できます。しかし、仮に負債が資産を超える「債務超過」に陥っても、実は直接的な倒産理由にはなりません。事実、中小企業の31.0~37.1%は債務超過で事業を行っています(2007~2016年度)※。
※参考:中小企業庁 2019年版中小企業白書
企業が倒産を余儀なくされる主な原因は「資金繰り」です。端的にいうと「支払いに充てる現金を用意すること」を指し、支払いに充てる現金を用意できない状態を「資金ショート」といいます。
「不渡り」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。これも資金ショートの1つで、決済用の銀行口座(当座預金)に十分な現金を用意せず、自社で振り出した手形や小切手が引き落とせない状態を指します。
資金ショートも、直接的には企業倒産の原因とはなりませんが、支払いを怠ったことを理由に取引を打ち切られる可能性が高く、現実的には破綻の原因となります。特に不渡りは金融機関で情報が共有されるため、融資が打ち切られ事業継続が困難になる可能性が高いでしょう。
山一證券は廃業する1997年11月、どうしても資金ショートに陥ると気づきます。メインバンクの富士銀行(現みずほ銀行)に協力を要請したほか、外資系金融機関との提携を模索しますが、いずれも交渉は実りません。そして11月14日、月末にどうしても1300億円程度の資金ショートに陥る見込みとなり、24日に自主廃業を決定しました。