進む住宅価格の高騰で今後の金融政策はどうなるか

上述の住宅市場指数だけでなく、住宅価格の高騰も顕著である。米国連邦住宅金融局が発表する「住宅価格指数」は最新の2021年5月で前年同月比18.0%と、データの存在する1991年以降で最大の伸びを記録した(図3)。住宅バブルの最中の2005年中でも同10.7%が最高であったことから、足元の住宅価格の高騰ぶりがうかがえよう。果たして、新型コロナウイルス禍の最中に何が生じているのか。

 

今回の住宅価格の高騰には需要と供給の両面が寄与していると考えられる。リーマンショック以降、住宅ローンに対する金融機関の慎重姿勢も一因に住宅需要は抑制されていたが、リーマンショック後の景気回復局面が結果的には過去最長の128カ月にも及ぶ中、失業率が3.5%にまで低下するなど雇用・所得環境は大幅に改善した。

世帯数の増加も顕著で、潜在的な住宅需要がいよいよ発現しつつあった。しかし、そのタイミングで新型コロナウイルスに見舞われ、需要は急減を余儀なくされた。もっとも、通常の景気後退と異なり、新型コロナウイルスに起因する経済活動の収縮は、経済の不均衡によりもたらされたものではなく、それゆえ、金融面でのショックは限定的である。

むしろ迅速で大規模な経済対策が家計の所得を押し上げ、FRBの極めて緩和的な金融政策が住宅ローン金利を低下させ、銀行の手元資金を潤沢にした。さらに、在宅勤務の増加が特に郊外の住宅需要を喚起した側面もある。その結果、需要は急回復し、住宅市場指数の異例の上振れをもたらしている。

ところが、旺盛な需要に対して供給が追いついていない。これは需要と供給の単なるタイムラグだけではなく、新型コロナウイルスの感染拡大で建材の調達や労働力の確保が難しくなっているためと考えられる。住宅販売件数が最近数カ月減少しているのも、物件の少なさに起因している可能性が高い。今後、新型コロナウイルスの感染が収束するにつれて供給制約は緩和されると見込むが、そのタイミングは見通し難い。

住宅価格の高騰にFRBも警戒を示しつつある。6月に開催されたFOMC(米国連邦公開市場委員会)の議事録には、何人かの参加者の指摘として、低金利が住宅価格の上昇に寄与しており、住宅市場の価格調整圧力が金融の安定にリスクをもたらすかもしれないと記された。資産価格の上昇へは、規制・監督を通じた対応が先決とFRBは位置付けており、専ら住宅価格の上昇を理由に金融引き締めに転じる可能性は低い。しかし、住宅価格の上昇が家賃の上昇をもたらし、消費者物価指数を押し上げるようであれば、物価安定の責務を達成するために金融引き締めが必要となるかもしれない。

いずれにせよ、良好な経済ファンダメンタルズに鑑みれば、当面、住宅需要が後退する可能性は低く、住宅価格の伸びが大幅に鈍化することもなさそうだ。逆に住宅需要が後退するとすれば、極端な価格上昇の果てであろう。当局の舵取りが試される。

(データは全て2021年8月16日時点)