前回、私はみずからのロールモデルを「クラシックカー」になぞらえている経緯についてお伝えいたしました。その中で、私の研修講師経験とコラム執筆をクラシックカーの部品に例えました。
今回はお客さまとの信頼関係を構築するにあたり、どうしても譲れない3点についてお伝えしたいと思います。それは、やや大げさな言いまわしにもなりますが「我が矜持」ともいえると思います。
1点目は、いかなることが起きようが、約束の5分前に必ずドアノックをすることです。かつて先輩は「岩本君。君はプロフェショナルとアマチュアの違いがわかるかい?」と質問してこられました。私が答えに窮していると先輩は「アマチュアは一回の機会に一回失敗しても許されるが、プロフェショナルは100回の機会に100回すべて成功するのが当たり前。一回の失敗も許されない。だからお金をいただけるのさ。」と。5分前ノックを確実に実現するためには、例えば地方出張なら前日泊も辞さずという構えでした。もし当日飛行機が欠航してしまったら、取り返しがつきません。また、15分前や30分前から先方近くで待つのも当たり前です。あらかじめ周囲の様子を把握できるなど、得られる効能の方が大きいと思います。
2点目は必ず、A4用紙1枚でも、たった1行でも、何か新しい情報、新しい話をお届けすることを心掛けることです。ある時お客さまを訪ねると、その日はお客さまの隣に部下の方がいらっしゃいました。面談が終わりかけていたころです。お客さまは「岩本さんは私を訪ねてこられる時、必ず何か新しい情報を提供してくれる。たった1行のメモをいただいたこともあった。きょうはわざわざ部下を隣に座らせて待っているのに、メモをくださらないのですね。」と。私は「申し訳ありません。お渡しそびれていました。」と言い、かばんから1枚の紙を取り出し、お客さまにお渡しいたしました。すると、お客さまは部下にその紙を渡され、「やっぱりそうだろう」と言わんばかりのお顔をされました。
3点目はネクタイです。必ずお客さまのコーポレートカラーにあわせたネクタイを締めて面談に臨みます。それは、お会いする前に、お客さまのことを勉強してまいりましたという証のためです。私がお客さまのコーポレートカラーのネクタイにこだるのは、生涯忘れることのできない大失敗をしているからなのです。
私は30代の半ばに、お取引先総合商社のインドネシア向けプロジェクトファイナンスのエージェントステイタスをいただき、すっかり有頂天になっていました。そして何も下調べせずインドネシアに乗り込んだのです。500名を超える調印式で、ひな壇に座ったまでは良かったのですが、周囲を見まわすと、紺のスーツに紺のネクタイは自分ひとりでした。他の方はみな、バテックと呼ばれるインドネシアの民族衣装柄のシャツ、あるいは白の麻のスーツ姿でした。すべては私のインドネシアに対するレスペクトの欠如が起因していました。事前準備がなかったのです。以来、私はお客さまとの面談が決まると、徹底的に事前準備を励行するようにしています。
これら3点はどなたでも出来る事ばかりです。それだけで他との違いが出るわけがないと思われるでしょうが、必ずそれを実行し続けることが大切ではないでしょうか。
3点申しあげたところで、もうひとつ、「我がモットー」をお伝えいたします。
「信頼と継続」です。どちらが欠けても成り立ちません。
1998年12月に銀行等金融機関での投資信託窓口販売(いわゆる窓販)が始まるにあたり、私はこのビジネスの責任者として「信頼と継続」というフレーズを使い始めました。60代になりスイス・ジュネーブに本社のあるピクテの日本法人に入りました。社内でパートナーが書いたエッセイ集を読み進めたところ、「ピクテにおいて『信頼』とは、お客さまに提供する最高のサービスであり、『継続』は言うまでもないこと」という一文を発見しました。自分がモットーとしてきた考えは間違っていなかった。これからもこの考えを続けていける。と。これ以上の喜びはありませんでした。今でも、その時のことを鮮明に覚えています。
7月から半年という短い期間でしたが、本コラムにお付き合いいただきありがとうございました。コラムは本日をもってピリオドを打ちますが、フィナシープロを引き続きご愛顧いただきたく、宜しくお願いいたします。
皆さまのご活躍を心よりお祈りいたします。
良いお年をお迎えください。
ありがとうございました。