金融庁や第三者委員会の調査によると、いわき信用組合は2004年3月~11年3月ごろ、実態のない企業を経由したり、一般顧客の口座を無断で使用したりといった方法で、大口融資先への不正な資金繰りを行っていたとされます。
この大口融資先は東日本大震災の影響で事業停止となったものの、同組合側は不正の発覚を免れるため、口座の無断使用を継続し、不正融資額は合計で240億円超に上るとされています。
さらにこれとは別に、職員が顧客口座を無断で借用して融資を実行し、着服していた事案も発覚。組合は大口先への不正融資の発覚につながることを恐れ、着服についても隠蔽し、処分を行わないまま勤務を継続させていたとされています。
金融庁は、一連の不正の長期にわたる隠蔽や、コンプライアンス・内部管理体制の不備を理由として業務改善命令を発出。同組合は「処分を厳粛に受け止め、(略)信頼回復に向けた改善活動に真摯に取り組む」との謝罪コメントを公表し、理事長を含む経営陣の刷新を発表しました。
「理事長にモノ申しにくい空気感」を指摘
金融庁幹部は報道陣に対し、「世の中にはきちっとした運営をしている信用金庫・信用組合もたくさんあるので、過度な一般化は戒められるべきだ」と前置きした上で、「やはり規模が小さく、幹部に外部からの登用が少ない。上場している銀行などと比べて人間関係的に、理事長にモノを申しにくい場合があるのではないかと推察される」と述べました。
一方、いわき信用組合は東日本大震災の震災特例による公的資金注入先ということもあり、長期間にわたって不正を見抜けなかった金融庁に対する批判の声も上がっています。金融庁幹部は「不正を見抜けなかったことについては監督当局として重く受け止めている」と説明。「なぜもう少し早い段階で当局として対応できなかったのかも把握していきたい」と語りました。
たしかに、不正や隠蔽を長期間にわたって見過ごしてきたことで横領額が膨らんだこともあり、当局の対応の遅さは擁護できるものではありません……が、系統金融機関の検査・モニタリング態勢については以前から、当局側のリソース不足が問題視されてきたのも事実です。
もともと金融庁の前身である金融監督庁が発足した際に抱えていた最大のミッションは、不良債権問題の後始末でした。その必然として、当局の人的リソースが大手行への対策に集中することになりました。近年になって検査マニュアルが廃止されて「ルール偏重」の是正に動いたものの、大手行にリソースを費やす根本的な不均衡が解消されていません。加えて金融庁自体が、他国で同様の機能を持つ機関と比べて規模が極端に小さいこともあり、系統金融機関の監督・モニタリング態勢は盤石とは言えません。
一方、信用金庫・信用組合は地域企業のサポート役として重い役割を担っています。政府はコロナ禍以降、物価上昇や米国関税措置などの影響を受けた中小企業に対し、親身なサポートを度々要請してきました。その結果、「企業をサポートする前向きな事例を共有するのみで、不正の検査が手薄になるアンバランスが常態化していた」(金融庁元幹部)という指摘もあります。
金融庁の組織拡充に向けた動きが全く存在しないわけではありません。折しも4月には、岸田文雄前首相率いる資産運用立国議連が、「既存の省庁内の機構のスクラップ&ビルドに固執した硬直的な考え方を踏襲することなく、抜本的な組織拡充を行うべきである」と提言しました。不正が連鎖的に発覚すればいっそう責任をいっそう厳しく問われることになるため、当局側が検査を萎縮するのではと懸念する声もありますが、恐れずに毅然とモニタリングを継続することで、この機運をいっそう高められるかもしれません。