この夏の猛暑は皆さまの日常に大きな影響を与えました。温暖化は地球規模で確実に進行しています。9月の終わりから米国南東部を襲ったハリケーン「へリーン」の報道が続いています。その強さは最も厳しいレベルから2番目の「カテゴリー4」だとか、ゼネラル・モーターズ(GM)の2工場が停止に追い込まれているとか、インフラや農作物の被害を含めると米国全体の経済損失は1,600億ドル(約23兆円)とか、不幸にしてお亡くなりになられた方が200名を超えているとか。こういった内容です。
ぞっとしてしまう話ですが、私は思わず20年近く前のことを思い出しました。それは当時米国を襲ったハリケーン「カトリーナ」の惨事です。カトリーナが発生した2005年8月の翌月、私は米国に出張しました。カトリーナのカテゴリーは最も厳しい「5」でした。今ならば、間違いなく出張そのものが止められてしまうでしょうが、当時の私はとにもかくにも、本邦に資産運用アドバイザ―業務を根付かせたいの一心で、米国に行けば何かヒントを得られるのではないかとの強い思いだったのです。したがって、出張を取りやめるような気持ちは微塵(みじん)もありませんでした。
米国に渡り、宿泊先のホテルから80kmほど離れた町で、帯同を約束している資産運用会社の若者と合うことになっていました。彼はその町の一帯を一人で担当していました。当日の訪問予定先は、午前2社、午後3社の合計5社。朝、昼、晩の食事時間帯にミーティングの入ったスケジュールが組み込まれていました。
当日は朝から激しい雨が降り、待ち合わせ場所に近づくころには、日本では経験したことのない雷を伴ったサンダーストーム状況になっていました。待ち合わせ時間の少し前、上着をつけず、ずぶ濡れ状態の彼が待ち合わせ場所となっていたドーナツ店に入ってきました。
何と、彼の車は道路にできた巨大な水たまりにはまってしまったのです。彼は何とか脱出し、それでも約束の時間に遅れまいと必死になって店に飛び込んできたのです。
そんな中にあって、彼は何をさておき本社に一報を入れ、続いて午前に訪問を予定していたお客さまに電話をかけ、キャンセルの了解を取り付けていました。そしてレンタカーを手配して自宅で着替えを済ませ、「さあ、これから仕事です。楽しみにしてください。」と言ってレンタカーでミーティングを予定しているお客さまのオフィスに向かいました。突然のアクシデントをものともせず、彼は予定していた販売会社のアドバイザーの前で、極めて簡潔でわかりやすい説明をしていました。
いまだ私の脳裏に印象深く残っているのは、彼の背筋が伸びた姿勢とさわやかな表情です。彼は身に降りかかった災難をおくびにも見せず、自身の仕事を全うしていました。
翌朝、トラブルがあったにも関わらず、お客さまに迷惑をかけずに果敢に行動したその若者の1日を、上司である営業本部長にメールで伝えました。メールの最後の一文は「彼を日本に連れて帰りたい」としました。