finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
永田町・霞が関ウォッチャーのひとり言

【文月つむぎ】「年収の壁」は何のためにあるのか いっそのこと扶養控除は愛猫・愛犬にも?

文月つむぎ
文月つむぎ
2024.11.27
会員限定
【文月つむぎ】「年収の壁」は何のためにあるのか いっそのこと扶養控除は愛猫・愛犬にも?

 

「なんとか万円の壁」が多すぎる

「年収の壁」の議論が活発化している。壁には100万円、103万円、106万円、130万円のほか、1億円といったものまであり、住民税や所得税、社会保険料、配偶者控除等の対象になるかならないかの境目であるとか、所得税の実効税率が低下するポイントであったりする。以下、2つの代表的な壁について述べてみたい。

まず、「年収103万円の壁」だ。給与所得者の年収が103万円(基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)の合算)を超えると所得税の支払いが発生するところ、基礎控除額などを引き上げることで、手取りを増やそうというものだ。ご存知の通り、国民民主党は75万円引き上げて178万円にするように求めている。この引き上げ額の場合、年収200万円では現状よりも約9万円の減税となり、年収500万円では約13万円、年収1000万円では約23万円、年収1500万円では約32万円の減税となる一方、国と地方の税収が合わせて7兆円~8兆円減ると試算されている。現在、引き上げ幅や対象者などを絞ることで税収減をより小さくできないかという議論が進んでいるようだが、少数与党の状況下、ある程度の控除額見直しが早々に実現しそうな状況である。

2つ目は「年収106万円の壁」だ。5年に一度の公的年金制度の財政検証(今年7月に結果公表)を踏まえ、足元で年金制度改正の議論が本格化する中、短時間労働者が社会保険(厚生年金保険や健康保険)に加入する要件である「年収106万円(月給8万8千円)以上」という賃金要件を撤廃する方向という。今後は週20時間以上働いた場合には、年収に関わらず社会保険に加入することになり、保険料の負担発生により、現在の手取りが大きく減ってしまうケースが出てくる。200万人に影響すると言われており、例えば、年収105万円の会社員に扶養されるパートの方の場合、年間15万円程度手取りが減ると試算されている。

こうした議論を聴くうえでは、「103万円の壁」は所得税に関するもので、「106万円の壁」は社会保険料(厚生年金保険料と健康保険料)に関するものであることを理解する必要がある。「税」と「保険料」は徴収されることは同じだが、保険は予期せぬリスクや困難な状況に備えるための金銭的な保障であり、厚生年金保険は長生きリスクや障害リスク等に備えたものと言える。

少々横道にそれるが、YouTubeでは「厚生年金を最もお得に受け取るには〇歳から受給しなさい」といった解説動画が数多く並んでいるのだが、(終身の)厚生年金をお得に受給するには、出来るだけ長生きすれば良いだけだ。また、在職老齢年金(賃金と年金の合計額が一定額(月額50万円)を超えると年金の一部が減額されたり、全額が支給停止されたりする仕組み)の見直しも話題となっている。ここでも「年金をもらい損ねないようにするには、あなたの賃金をいくらまでに抑えればよい」といった解説が並んでいるのだが、賃金と年金の合計額が一定額を超えても手取り額は順次増えていくわけであり、また、退職後、長生きすれば「もらい損ね」感を軽減することが出来るだろう。

思うに賃金と年金を合わせて月額50万円以上受け取れる方々は、金銭面での不安は比較的小さいのではないだろうか。政府としては「それなりに資金面で余裕のある方々は、財政事情が厳しい中、年金減額をお願いしたい。また、是非とも仕事を通し才能を存分に発揮して社会に貢献して頂きたい。それにより生きがいも感じて頂けるのではないか。」という気持ちかと思う。「そういった考えは政府の思うつぼだ!」といった意見が聞こえてくるような気がするが、政府の思いも理解しえなくもないところだ。

扶養控除は本当に必要か?

「106万円の壁」の話に戻そう。厚生年金保険は長生きリスクや障害リスク等に備えたものではあるが、これまで社会保険料の負担がなかった現役世代のパートの方々にとっては、「障害を負っても年金が出ますよ、また、将来の年金も増えますよと言われても、今後障害を負うかはわからないし、ましてや何歳まで生きられるかわからないよ。」として、一気に大幅な手取り減となる事態を素直に受け入れる方は多くないのかもしれない。

また、「103万円の壁」については、例えば、アルバイトをしている学生(19歳以上23歳未満)が扶養家族にいる世帯では、彼らの年収が103万円超となった場合、親御さんが受ける所得税の特定扶養控除(63万円)が適用外となり、世帯全体で見ると手取りが減少するという事態が発生する。よって、労働力確保の観点より年収の壁の見直しを図るということであれば、基礎控除や給与所得控除の最低額を引き上げるといっただけでは不十分であり、社会保険料負担や扶養控除の適用の在り方についても併せて議論していく必要があることは各メディアが唱えているところである。

思うに、「賃金を得た者は、皆がその額に応じて税や社会保険料を負担する」ということが徹底されれば、こうした壁に伴う課題はかなり解消されていくものと思われるが、既存の制度を大胆に見直すことになり、政治的なハードルはかなり高いだろう。少しずつ壁を低くしていくという手法が現実的なのかもしれない。

ちなみに、扶養控除についてであるが、養育費が馬鹿にならない我が家の愛猫も扶養親族に入れて欲しいのだが、今のところ「人」に限定された制度の見直しには、まずは永田町や霞が関で愛猫や愛犬を家族に持つ方々のご理解とご支援が必要であろう。

 

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1
前の記事
自公過半数割れで「時の人」に? 玉木雄一郎氏が率いる国民民主党の財政・金融政策を精読する
2024.11.06
次の記事
「ふてほど」金融不祥事は「もうええでしょう」… 性悪説に立ってモニタリング高度化を
2024.12.19

この連載の記事一覧

永田町・霞が関ウォッチャーのひとり言

【文月つむぎ】運用立国議連の新「緊急提言」を読み解く!NISA、税制の見直しで対応が求められる3つのポイント

2025.12.04

【文月つむぎ】証券口座乗っ取り被害ゼロへ 金融庁の新監督指針を読み解く

2025.11.07

【文月つむぎ】片山さつき新大臣に贈る言葉

2025.10.28

【文月つむぎ】統合・再編議論の先は? 金融庁WGが照らす地域金融機関の未来

2025.10.20

【文月つむぎ】発足はいつ?高市政権下での金融機関の役割

2025.10.10

【文月つむぎ】日証協の「個人投資家意識調査」を熟読すべし 新規投資家層の早期失望に備えよ

2025.10.06

【文月つむぎ】iDeCoがんばれ、NISAに負けるな! 
現状打破へ「7つの提言」

2025.09.22

【文月つむぎ】NISA拡充策の議論が本格化、押さえておきたい3つのポイント

2025.09.12

【文月つむぎ】投資初心者を狙う「フィンフルエンサー」の脅威に備えよ 法規制があいまいな「グレーゾーン助言」の実態

2025.08.29

【文月つむぎ】"フィーベース信仰"に一石? IFA団体が世に問う「顧客本位の新常識」とは

2025.08.05

おすすめの記事

「遵守か説明か」から「遵守か合併か」に――2026年の地銀政策はどこへ?金融審「地域金融力WG報告書案」を深読み

川辺 和将

国内株は高値一服で押し目買いの資金流入が拡大、高パフォーマンスはヘルスケア関連株ファンド=25年11月投信概況

finasee Pro 編集部

マン・グループの洞察シリーズ⑬
AIバブルのタイミングを計ることはできないものの備えることはできる

大和証券の売れ筋で「ピクテ・ゴールド」はトップ堅持、株式アクティブファンドを人気や運用成績で上回るバランスファンドは?

finasee Pro 編集部

「顔の見える関係」づくりに注力、より良い企業型確定拠出年金制度の実現に大和ハウス工業がコミュニケーションを重視する理由

finasee Pro 編集部

著者情報

文月つむぎ
ふづきつむぎ
民官双方の立場より、長らく資産運用業界をウォッチ。現在、これまでの人脈・経験を生かし、個人の安定的な資産形成に向けた政府・当局や金融機関の取組みについて幅広く情報を収集・分析、コラム執筆などを通し、意見を具申。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
マン・グループの洞察シリーズ⑬
AIバブルのタイミングを計ることはできないものの備えることはできる
「遵守か説明か」から「遵守か合併か」に――2026年の地銀政策はどこへ?金融審「地域金融力WG報告書案」を深読み
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
マン・グループの洞察シリーズ⑫
金に投資する意味とは何か
「顔の見える関係」づくりに注力、より良い企業型確定拠出年金制度の実現に大和ハウス工業がコミュニケーションを重視する理由
第6回 アクティブファンド投資の常識を疑え!(その4)
アクティブファンドに投資する理由はない?
企業型確定拠出年金の運用商品を見直し、継続投資教育を刷新したヤマト運輸が加入者の反響を得た手応えとは
SBI証券で再び米国大型テック株への関心高まる、新設「メガ10インデックス」もランクイン
野村證券の売れ筋トップ10入りした「野村日本バリュー厳選投資」は国内株ファンドを左右するバロメーター
【運用会社ランキングVol.4】野村アセットマネジメントが2年連続トップ、3位に急浮上したのは大和アセットマネジメント/ゆうちょ銀行・郵便局編
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
企業型確定拠出年金の運用商品を見直し、継続投資教育を刷新したヤマト運輸が加入者の反響を得た手応えとは
富士通/富士通企業年金基金の企業型確定拠出年金の取り組み-加入者の関心を高めるセミナー、動画配信の工夫に迫る
マン・グループの洞察シリーズ⑬
AIバブルのタイミングを計ることはできないものの備えることはできる
ファンドモニタリングは、どの指標を参照すればいいか
(4)バランスファンドのモニタリング① ベンチマークの課題とその解決法
こんな議論してたっけ!?資金交付制度だけじゃなかった、地域金融力WG報告書案で飛び出した注目ポイント3選
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
「顔の見える関係」づくりに注力、より良い企業型確定拠出年金制度の実現に大和ハウス工業がコミュニケーションを重視する理由
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
【運用会社ランキングVol.1】販売会社が運用会社に求めるものは、運用力か人的支援か? 2025年の評価を発表!
【連載】こたえてください森脇さん
⑫元本保証でない商品の販売を嫌がる職員への働きかけ
長野市vs松本市"不仲説"を乗り越え統合の八十二銀・長野銀が、「もう取引しない」と立腹の取引先と雪解けに至るまで
三井住友銀行の売れ筋でランクアップしたファンドは? ランクインした「ライフ・ジャーニー」は期待以上のリターン
【運用会社ランキングVol.4】野村アセットマネジメントが2年連続トップ、3位に急浮上したのは大和アセットマネジメント/ゆうちょ銀行・郵便局編
いわき信組処分の余波……金融庁は刑事告訴を検討も、地域金融機関を救う「資本参加制度の延長論」に落とす影
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら