前回の「米国投資信託最新事情」では、米投資信託協会(ICI)のデータを用いて1 ~ 3月期の米ミューチュアルファンド(Mutual Fund)の資金動向を確認し、米国株式型を中心に長期投資信託(MMFを除くミューチュアルファンド)からの資金流出が続いていることを解説しました。米ICIは「投資会社ファクトブック(Investment Company Fact Book)」という年次報告書を作成していますが、今年7月に初めて日本語版のクイックファクトガイドを公表しています。こちらは米国を中心に2023年までの投資信託市場のデータをまとめたものですが、改めて米投信市場の大きさや先進性などがうかがえる内容となっています。
米ミューチュアルファンドの残高は過去最高を更新
7月30日に米ICIが6月の米ミューチュアルファンドのデータを公表していますので、まずは最新の残高データから確認していきましょう。6月末時点の残高は27.1兆ドルと3四半期連続で増加し、2021年12月末の26.9兆ドルを上回って四半期ベースの過去最高を更新しました(図1)。ただし、この内訳をみるとMMFの伸びが顕著となっています。
MMFの残高は6.1兆ドルと8四半期連続で過去最高を更新しており、米短期金利の上昇などを背景に急拡大しています。
一方で、MMFを除く長期投資信託の残高は6月末時点で21.0兆ドルとなっていますが、こちらは2021年12月末時点の22.1兆ドルに届いておらず、米国株式相場が過去最高値を更新する中でその伸びは限定的となっています。この点は、NISAの制度拡充や円安・株高の恩恵で過去最高残高の更新を続ける日本の投資信託とは異なる動きと言えるでしょう。
株式型を中心に資金流出が継続
続いて、ミューチュアルファンドの資金流出入を見ていきますが、分類別で最大の資金流入を記録しているのは、やはりMMFとなっています(図2)。4~ 6月期の資金流入額は+530億米ドルで、次いで債券型が+96億米ドルで2四半期連続のプラスとなっていますが、それ以外の分類は資金流出が続いています。6月末時点の残高で最大のシェアを持つ米国株式型は2014年4 ~ 6月からおよそ10年間、一貫して資金流出が続いており、国際株式型も10四半期連続の資金流出です。また、401(k)など米確定拠出型企業年金で市場が拡大していると言われるターゲットデートファンドを含むバランス型も、11四半期連続の資金流出となっています。
前回の連載ではこうした長期投資信託からの資金流出の背景にはベビーブーマー(出生率が上昇した1946年から1964年に生まれた世代)の資産の取り崩しがあることを指摘しました。一方で、上場投資信託(ETF)は4 ~ 6月期も+2000億米ドル程度と高水準の資金流入が続いており、伝統的なミューチュアルファンドからは資金流出が続いているものの、米国の資産運用ビジネス全体としては成長が継続していると考えられます。
ミューチュアルファンドからCIT への資金シフト
また、冒頭で紹介した「投資会社ファクトブック」の日本語版クイックファクトガイドでも取り上げられていますが、ミューチュアルファンドからの資金流出の理由として、集団投資信託(CIT:Collective Investment Trust) と呼ばれる金融商品がミューチュアルファンドに代わって台頭しているという事実も見逃せません。CITは信託スキームを活用して合同運用を行うもので、情報開示などの点でミューチュアルファンドほどの厳しい規制が求められないため、一般的に低コストでの商品提供が可能になると言われています。図3に示したように、401(k)プランでも比較的規模の大きいものは、ミューチュアルファンドから、より低コストのCITにシフトしています。つまり、401(k)のプランスポンサーが、規制とコストのバランスを考えながら、投資家のニーズに対応する形で金融商品の選択を行っているということです。
そもそも米ICIが毎年公表している「投資会社ファクトブック」は、2005年に公表された2004年版までは「ミューチュアルファンド・ファクトブック(Mutual Fund Fact Book)」と呼ばれていました。この名称が変わったのは、米国の集団投資スキームが多様化し、伝統的なミューチュアルファンドだけでは資産運用業界の動向がカバーしきれなくなったためと考えられます。こうした金融商品をめぐるさまざまな進化が見られるところこそ、米国の資産運用業界の見習うべき点と言えるかもしれません。