投信販売に徹底した顧客本位の姿勢が求められる中、現場からは戸惑いや不安の声
も聞かれます。若手、ベテランを問わず真のフィデューシャリー・デューティーを実現するにはどうすればいいでしょうか。これまで2000人以上のお客さまに「あなたのための」資産アドバイスを行ってきた株式会社フィデューシャリー・パートナーズの森脇ゆきさんが、皆さんのお悩みに答える連載、第2回目です。
Q:職員「支店長! ご自身の新NISAはどこの金融機関で開設しますか。どんな商品を買いますか?」
このような職員からの問いかけに、あなたならどのように答えますか。
A: 支店長「それは当然当社ですよ。購入商品はあなたに案内をしてもらってから決めようかな」
森脇's Answer:
対面金融機関だからできる
「そうではない人々に伴走する」という付加価値
マネジメント層である支店長の皆さんは、当然「自金融機関で開設する」と答えるでしょう。それは、支店に課されるNISA口座開設目標件数を達成するための営業協力だけが理由ではないはずです。経営者なら自社の提供する商品・サービスをよく知っておく必要があります。それは、取引先のさまざまな企業経営者と接してきた金融機関の支店長ならよくご存知だと思います。
ところで、恒久化され投資枠も拡大されたことでいよいよ重要度が高まるNISAですが、大手ネット証券で開設するのが有利であるという声が聞かれます。たしかに、取扱商品(証券会社では株式やETFの取り扱いがある)や投資信託の取扱商品数、そして利便性を比較すると、ネット証券で取引するのが優れた選択であるように思えます。では、対面金融機関がNISAを取り扱うことに意味はないのでしょうか。さらに言えば、投資商品を取り扱うこと自体に意味はないのでしょうか。
もちろんそうではありません。対面で販売することにどのような価値があるのか、私が出張中によく利用する定食屋の女将さんからいただいたヒントを紹介します。女将さんは電化製品を購入する際、古くから付き合いのある街の電気屋さんで購入するそうです。購入するのは家電量販店で販売されている製品であり、しかも価格設定は高いのですが、「困ったときにすぐ相談できる安心感があるのよね。それはお金の問題ではないのよ」とのこと。続けてこうも話していました。「私も食材が余っているとすぐ小鉢をサービスするのよ。それはお客さんに食べてもらいたいという気持ちでしかないの。それをコンサルしているというエライ人は、小鉢にも料金を設定しなきゃダメだと言うのだけど、商売において大切にしているものや目指しているものが違うのよね」。
この女将さんは、対面であることの価値、さらに言えばそこに価値を見出して利用したいと考えるお客さまがいることを教えてくれたのです。この女将さんのようなお客さまは、「手数料が安い」「金利が高い(安い)」「便利でオトク」というセールストークのみでは心が動かないことが想像できると思います。
では、投信販売を対面で行うことの価値とは、具体的には何なのでしょうか。そのためにまず資産形成・投資を成功させるために必要なことが何かを考えてみます。それはシンプルに言えば、「自分の投資目的に合う商品を購入すること」と「相場変動時(特に下落時)に解約しないこと」の二つに尽きます。自分の投資目的に合う商品とは、大まかに言って長期投資に適しており、お客さまが自分の意思を反映できるような商品です。そして、どのような商品でも価格変動するのですから、価格が下落した時に慌てて解約しないで投資を継続することが欠かせません。自ら書籍やウェブで情報収集して学習する意欲があり、なおかつ相場変動時にも動揺せずに投資を継続できる胆力のある人は、ネット証券等、非対面のチャネルで商品選定して投資するのが良いでしょう。選択肢も豊富ですし、その結果、手数料などのコストも低く抑えられます。しかし、世の中全ての人がそうではありません。むしろ、そのような人は少数派かもしれません。対面金融機関が相手にすべきなのは、決して少なくない「そうではない人々」ではないでしょうか。
インターネットの操作が苦手な人はもちろんですが、それ以外にも対面で投資商品の案内を受けたいと望むお客さまは多くいます。投資についてきちんと教えてほしい人、自分に合った商品を紹介してほしい人、商品についてしっかり説明を受けてから買いたい人……このような人々にアプローチするのが、対面金融機関の役割です。そして、私が特に重要だと考えているのが、長期投資の伴走をすることです。長期投資を継続していけるように、相場変動時にフォローすることの意味は極めて大きなものがあります。生涯にわたる長期投資をサポートし続けることは、担当者が代わっても組織としてずっとお付き合いしていく対面金融機関にしか生み出せない付加価値なのです。
自社サービスの利用は、知識の交換・交流と
課題抽出のチャンス
このように、投信販売において対面金融機関は潜在的に大きな存在意義を抱えています。それを十分に発揮して、お客さまに価値を提供するためには何をすべきでしょうか。それを知るためには、自金融機関・自店で提供されている商品・サービスを把握することが欠かせません。自金融機関でNISA口座を開設するのもその一環です。できればただ口座を開設するだけではなく、自店の職員による案内を受けて実際に商品を購入してみてください。上司にクロージングをするのは緊張するものですから、職員にはできるだけプレッシャーを感じさせないように工夫してください。私のかつての職場では、日頃から若手職員への教育のためにロールプレイングを実施していました。課内で声をかけ合い、見学するのが当り前の状態を作ります。お客さま役は、ある時は支店長、またある時は課長、あるいは新人、など変化をつけるとなお良いです。知識の交換や交流が日常化する取り組みを日頃から行うことが大切です。
実際に支店長自らが自社のサービスを利用することで、課題や対処策がきっと見えてくるはずです。職員の研修は足りているか、商品ラインアップに見直しの余地はないか、説明資料は充実しているか、など。千差万別のお客さまに対応し、価値を提供するための体制づくりに生かしてください。顧客本位とは、このようにして作り上げられた環境の上に実現されるものだと思うのです。