Q:職員「支店長! 投資信託の定時定額購入はお客さま本位の提案だと思うのですが、一括購入は違うと思いませんか?」
A: 支店長「定時定額投資と一括投資、どちらも万能ではなく、どちらかが正解である、という訳でもありません。お客さまはそれぞれ、リスク許容度や投資の目的が違いますので、一緒に考えていきましょう」
森脇's Answer:
一括投資に消極的な、二つの理由
定時定額投資の案内はできても、一括投資の案内は苦手であるという声は時折耳にします。お客さま本位の営業活動を行う上では、常にどちらも提案の選択肢として考えておきたいところですが、一括投資の案内に尻込みしてしまう気持ちは分からなくはありません。その理由は二つあります。
一つは、日本経済が長年にわたって停滞しており、長期的に見ても株価の上昇が限定的な状況が続いてきたことです。このため、長期投資によるリターン期待の薄さは否定できないものがあります。実際、日経平均株価に連動する投資商品は、長期間の低迷を反映して、リターンが限られることが多くありました(ただ近年では、TOPIXや日経平均株価はバブル絶頂期の最高値を超え、日本市場でも長期投資に対する認識が再評価される可能性があります)。
もう一つの理由は、NISA(少額投資非課税制度)の普及に関係しています。2014年に開始されたNISAは、インフレ目標の政策と相まって、それまで「お金持ちのすること」というイメージであった投資を広く国民一般に促すことになりました。特に、2018年につみたてNISAが登場して以降は、長期・つみたて・分散という三つのキーワードとともに、一般生活者の資産形成の手段として定時定額投資が受け入れられてきました。NISAの普及により、金融機関にとっては投資信託を販売する対象顧客層が大幅に広がったのです。それゆえ、投信販売に携わる職員としては、資金に余裕のある富裕層への一括投資の案内よりも、一般生活者に定時定額投資を案内することの方がよりなじみ深いものとなってきたのだと考えられます。
定時定額投資 vs 一括投資
投資にはリスクがつきものですが、リスク許容度はお客さまそれぞれに違います。リスクはブレと言い換えることもできますが、それは必ずしも小さいほうが良いとは限りません。リスク(ブレ)とは下落のみを指すものではなく、上昇もまたリスク(ブレ)であるからです。
また、リスクを排除することはできませんが、ある程度コントロールすることはできます。リスクを軽減する方法は以下の三つだと言われています。すなわち、①時間分散②地域分散③資産分散です。定時定額投資は①の時間分散にあたります。時間分散はいわゆる「高値づかみ」を回避する効果が期待できます。まとまった資金がなくても少額から投資ができるため、投資初心者が選択しやすい手法としても知られています。しかし、この定時定額投資が万能であるわけではありません。
定時定額投資は、相場の下落局面でその効果を発揮します。価格が下落していると、購入金額が平準化され取得単価が下がります。これにより、高値で一括投資したときよりも、損失額を小さく抑えることができ、また相場が上昇に転じた際にはより早く利益に転じるのです。一方、順調に価格上昇が続いていく相場においては、定時定額投資は一括投資より利益額は小さく不利な結果となります。
お客さまに分かりやすく単純化して説明する際には、「定時定額投資はプラスもマイナスも少なくなる傾向があり、一括投資はプラスもマイナスも大きくなる傾向があります」などと伝えると、お客さまの納得感が上がると思います。このように、お客さまのリスク許容度に合わせてリスクと上手に付き合うことを提案しましょう。最終的にどのような投資行動を行うかを決定するのはお客さま自身ですが、そのためにサポートすることは対面金融機関がお客さまに提供できる重要な付加価値の一つです。
常にお客さま起点と広い視野で
まずは担当顧客の中から、定時定額投資の、あるいは一括投資の、または両方の活用にニーズがありそうな先をリスト化すると良いでしょう。お客さまの年齢、給与振り込みの有無、家族構成、投資の有無などをもとに、あらかた目星をつけていきます。お客さま情報を活用してアプローチすれば、闇雲に声を掛けていくよりも個別の潜在ニーズを喚起することにつながります。その結果としてお客さまに「自分のための提案をしてくれた、ありがとう」と喜ばれます。
金融機関職員の皆さんは日々たくさんの業務をこなしながら目前の課題を消化しています。例えば自らに課された目標が「定時定額投資〇件、一括投資〇件」となっていた場合、その契約数が目的化してしまいがちです。目標達成できれば、それだけで良いのか、それが職員の成長につながるのか、と言えばそうではありません。
仕事の目的が目の前の業務を片付けることにばかりに向かっていては、金融機関の役割やそこでの仕事の意義を感じることも難しくなってしまいます。
支店長には、目の前の業務しか見えていない職員に対し視野を広げてほしいと思います。定時定額投資と一括投資の契約獲得が、単に達成すべき目標としか見えていなかったものを俯瞰してみればそこに見えるのは個々のお客さまのニーズなのです。
徐々に視野を広げていくとお客さまの周囲には、地域社会やより広域な経済全体が見えてきます。自金融機関がお客さまに対して果たすべき役割とともに、目の前の職員自身の成長を期待している、ということをぜひ伝えてください。自分のやるべき仕事の意義に気付くことのできた職員は、お客さまのために、地域のために、そして自金融機関のためによく学び、よく働くのではないかと筆者は考えています。