Q:職員「支店長! 投信のマイナスフォローが精神的に
つらすぎます。怖いです!」
A: 支店長「フォローは大変だと思いますが、ルールに従ってお客さま本位で頑張りましょう」
森脇's Answer:
分からないものを恐れないために、相場変動に動じない理解が大切
質問者の気持ちはよく分かります。かつては筆者も相場変動のフォローがとても怖く、逃げ出したいと思っていました。しかし、あるお客さまの言葉で目の覚めるような思いとともに、自分が何をすべきかに気づくことができました。
「投資した資産が下落するなんて当たり前です。深刻ぶって連絡してこないで!」。これは、筆者が初めて経験した相場下落時に、株式投資信託を大口契約していた80歳代女性のお客さま(A様)から言われた言葉です。
人は理解できないもの、分からないもの、知らないものに恐怖を感じる傾向があります。自分の向き合う対象が何なのか分からなければ、対処方法も分からないため、その問題からただ逃れようとするでしょう。
一方で、怖さの理由やその正体が分かれば、冷静に対処方法を考えることができます。筆者が投信フォローを怖いと思っていた原因は二つです。一つは、投資の何たるかを知らなかったこと。
もう一つは、お客さまを知らなかったことです。相場とは常に変動するものであって、大きく下落する局面もあります。それゆえに、投資金額がマイナスになることは当然あるものなのです。その当たり前のことを投資経験が豊富なA様は十分に理解しており、下落にも全く動じないだけのリスク許容度を持っていたのです。そのことに気づいた筆者は、A様のようにリスクに耐えて投資を続けられるお客さまを増やそうと決意しました。
お客さまが投資について理解し、相場変動を受け入れる用意があれば、マイナス時のフォローはとてもスムーズになります。担当者が適切に案内できれば、相場変動時にはむしろ追加購入を検討するお客さまが増えるようになります。
そのためにまず実践してほしいのは、購入時に「購入直後に相場が下落することもあり、しかもそれは日常的であること」を伝えることです。相場下落時にお客さまの訴えで多いのが「元本保証ではないということは知っていたが、こんなにすぐにマイナスになるとは思わなかった」というものです。購入時は楽観的に良い結果ばかりを想像しがちなので、あえてネガティブな状況を強調して心の準備をしておく必要があるのです。もしこのように伝えて、購入を見送るお客さまがいたら「マイナスに耐えられないお客さまに販売しなくてよかった」「将来のクレームの芽を摘んだ」と考えてください。
本連載第7回の記事で顧客本位と顧客満足の違いについて触れていますが、このように下落について注意を促すのはまさに顧客本位の営業活動だと言えます。下落時の話をすると、せっかく購入を考えていたお客さまが投資をやめてしまうと思われがちですが、実はむしろ逆に購入を決断することが多いのです。筆者は購入を迷っている人が腹を決める瞬間に幾度も立ち会いました。その姿は健気で感動さえ覚えます。
対面金融機関の付加価値は長期投資をサポートすること
いくら相場は下落するものと理解していても、いざ実際に下落すると不安になるものです。その際には、投資した当初の目的を思い出してもらいましょう。老後の資産形成など長期投資を始めた時の考えを再確認できれば、不安に駆られることなく継続保有することができるでしょう。
また、マイナスだけでなくプラスの場合も同様です。目的が長期投資であれば、目先の利益を追って解約することなく保有し続けることが中心になるでしょう。少しプラスになったから売却して、次の購入のために下落を待っていたが、なかなか下落せずに再度購入するチャンスを失ってしまい、結局保有し続けた方が成績が良かったなどという例は枚挙にいとまがありません。
対面金融機関の提供できる付加価値はお客さまの長期投資をサポートできるということにあります。長期投資の過程では、一人ひとりのお客さまの担当者は何度も代わっていきますが、組織として寄り添い続けることができます。自分の担当期間を超えた視点でお客さまと接していきましょう。
支店長が部下を知る、その姿勢が顧客本位の活動を支える
知識や経験の不足する担当者が、マイナス時のお客さまフォローに不安を覚えるのは当然のことです。不安を訴える担当者に、ルールに則って対応するようただ指示するだけでは、職員の心は離れてしまい、「分かりました」と答えつつ遠からず退職を決意するかもしれません。支店長はじめ管理職の皆さんには、ぜひ現場職員の悩みに耳を傾けてほしいのです。
職員が訴えてくる不満の全てに対処して、解消することは難しいでしょう。しかし、経験や知識不足が根底にある場合には、適切なアドバイスとサポートにより職員の成長意欲は大いに引き出される可能性があります。顧客本位活動の一丁目一番地は“お客さまを知る”ことですが、支店長が、その活動をする“部下の〇〇さんを知る”という姿勢が、顧客本位の活動を強力に下支えするものと信じています。