Q:職員「支店長! 今年は日銀が金利を上げてきましたが、お客さまに提案する商品に変化はありますか?」
A: 支店長「いい質問です。私たちの仕事において金利は非常に重要なものですから、変化は当然あります」
森脇's Answer:
日本銀行は2024年3月19日の金融政策決定会合でマイナス金利の解除を決定しました。「2007年2月以来のおよそ17年ぶりの利上げ」というニュースが流れたことは記憶に新しいと思います。歴史をさかのぼれば、金利はバブル崩壊の91年以降段階的に下がり、99年にはゼロ金利となり、2016年にマイナス金利政策へと突入しました。99年から現在に至るまで約25年間、金利はゼロに近い状態が継続してきました。この間に金融機関に就職した多くの方は、金利がないことが当り前の時代を過ごしています。金利と共に長期投資や複利のメリットも失われており、金利への関心も薄れていたと言えるでしょう。
定期預金の満期フォローから始めよう
さて、金利上昇によってお客さまへの提案にどのような変化があるかということについて一緒に考えていきましょう。
まずは、自分ごととして想像してみてください。今後金利は上昇する可能性があります。あなたはこの先5年は使用予定のない資金を定期預金にしようと考えています。1年定期と5年定期のどちらを選びますか。筆者は1年を選択します。なぜならば1年後の満期の際に、金利が上昇してより有利な条件で継続契約ができる可能性があるからです。もう一つ質問です。これから先、金利が下がっていく局面だと予想されていた場合、契約する定期預金は1年ですか、5年ですか。筆者は5年を選択します。これから金利が下がっていくなら、いま高い金利で長期の定期預金に固めておきたいからです。
このように、金利の変化による行動変容を想像してみて分かるように、まずは定期預金の満期フォローを変えていく必要があります。これまで意識されることの少なかった金利についての関心を喚起し、定期預金の契約期間を変更するニーズをお聞きしてみましょう。それと同時に、国債の金利についても案内してみると良いでしょう。金利を吟味する時代になると、個人向け国債も選択肢の一つとして魅力を増してきます。預貯金しか契約した経験のないお客さまも少なくないと思いますが、そのような方に選択肢を提示することも対面金融機関の大切な役割の一つです。
金利上昇の経済的な背景などをお話ししつつ、お客さまの困りごとや不安なことなどをヒアリングしてみましょう。特に、現在は多くの方が物価上昇を実感しているので、話をしやすい環境にあると思います。お客さまのニーズを探っていくと、金利あるいはインカムゲインについてどのように考えているのか、どこに魅力を感じるのかが見えてきます。そこから、国債の金利、J-REITの利回り、日本株の配当利回りなど各金融商品の利回りの話へと展開しながら、個別の商品のご案内へと移行していくことができるでしょう。
ここで、運用提案に携わる人全員に必要な考え方として「総資産提案」について触れておきます。これは、不動産や金などの物品を含む全ての資産について考えを巡らせてお客さまに提案する活動のことです。預金や投資、保険などの金融資産だけを把握していても、総資産提案はできません。顧客本位の投資・運用の提案をするためには、総資産を念頭に置いておく必要があるのです。そう考えれば、お客さまにとってこれまで金利のつかなかった預貯金の役割は何であったのか、これからは金利の付く預貯金の役割は何か、ということについてより深い見方ができるようになるでしょう。
金利に関する知識や最新の動向を頭に入れておく
金利の面から提案をしていく上では、各種金利について把握しておくことが必須です。預貯金の金利、個人向け国債の金利、J-REITの平均利回り、日本株の平均配当利回りは、常に最新の情報を頭に叩き込んでおきましょう。たとえば、高配当利回りをうたう日本株の投資信託があるとして、配当利回りが何%くらいならこの商品に魅力を感じるでしょうか。普通に考えれば、平均利回り以上でなくては高配当とは言えないと思いますよね。ということは、日経平均採用銘柄とTOPIX採用銘柄の平均利回りが頭に入っていなければ、商品の魅力や運用状況を把握することは難しいわけです。同様に、J-REITを組み入れた投資信託を評価するためには、J-REITの平均分配利回りを把握しておく必要があります。
金利は、預貯金や投資のみならず貸出も含め、全てに関わってくるものですから、金融機関にとっては最重要なものの一つであり、最優先で身につけてほしいのが金利についての知識・感性だと筆者は考えています。
そのために有効なのは、日々の金利を定点観測していくことです。株価と同じように、金利についても毎日確認して、常に即答できるようにしておくと良いでしょう。また、以下の項目について月一回程度の頻度で小テストを実施するのも良い方法だと思います。
①日本の政策金利
②前営業日の無担保コール翌日物
③前営業日の10年国債利回り
④前営業日のJリートの平均利回り
➄前営業日の日経平均株価採用銘柄の配当利回り
⑥前営業日のTOPIX採用銘柄の配当利回り
また、以下の商品の金利が、上記のどれに影響を受けるかという問題にも答えられるようにしておきたいところです(各商品の金利の決め方は金融機関により多少の違いがあると思われるので、自金融機関に適合するように検討してください)。
普通預金金利
定期預金金利(短期、長期)
個人向け国債の金利
住宅ローンの変動金利
住宅ローンの固定金利
10の知識があったとしても、実際にお客さまに伝えるのは1です。だからといって、知識を1だけ持っていれば良いわけではありません。1の知識をそのまま1だけ伝えるのでは、お客さまはその言葉に深みがないことを察知し、関係性が深まりにくいものです。10の知識で1話すと、お客さまはどんどん質問をしてくるようになり、投資への理解が深まると同時に信頼関係も深まります。積極的に自己開示するようになり、そうして得られた情報から適切な提案ができるようになり、お客さまに喜んでいただける営業活動ができるのです。そのための一歩として、金利の定点観測をして、いつでも話ができるようにしておくのです。
多くの支店長も未経験の金利上昇局面です。現場の漠然とした不安を、支店長も感じていることと思います。今後の局面を見据えて、まずは基礎の知識として現在の金利確認を徹底するところから始めてみてはいかがでしょうか。