Q:職員「支店長! 他の金融機関と比較して、投信の取扱商品が少ないので投資の案内がしにくいです!」
A: 支店長「気持ちは分かりますよ。でもあなたはお客さまをしっかりグリップしているからきっと大丈夫です! これからも期待していますよ」
森脇's Answer:
上記回答は共感を示し、良い回答のようにも取れます。支店長は、職員が前向きに受け止めて販売活動へ邁進することを期待しているのでしょうが、職員の自己肯定感を安易に刺激しているだけで、質問の本質には答えずにはぐらかしています。本稿では、対面金融機関における投資商品のラインナップについて、正面から考えていきましょう。
取扱商品が少ないことは、投資案内の障壁にはならない
お客さまに投資の案内をする際に、ラインナップが少ないことは、実は何の障壁にもなりません。それは投資のニーズを確認することと、商品の選定をすることは別の活動だからです。
私たちが行うのは、商品をお客さまに当てはめるのではなく、お客さまに合う商品を案内することです。別の言い方をすれば、商品ありきで投資の案内をするのではなく、預貯金以外のニーズを確認する過程で投資のニーズがあるかどうかを確かめるのです。投資ニーズがあることが分かれば、どのような投資活動を行うのが適切かを案内していくことになります。このように考えれば、取扱商品が少ないからといって、投資の案内ができないことにはならないのがお分かりでしょう。
取扱商品の少なさを嘆く背景には、販売活動について次のような誤解があるのかもしれません。例えば、面識のないお客さまに「投資信託で何か良い商品ある?」と聞かれて「はい、今巷で一番人気のある〇〇ファンドがございます。皆さま運用成績は良いようで、お客さまもいかがですか?」といった返答を一つの模範解答とする考え方です。このような販売方法は消費財では一般的かもしれませんが、投資商品はこれではいけません。食べたり使用したりして効用を確認できず、将来の損益が分からないからです。このような安易な販売をした場合、多くのお客さまは価格変動時、特に下落に耐えられません。よって解約を申し出てきたり、苦情につながったりします。お客さまが自身のリスク許容度や商品リスクを理解し、投資目的も明確な場合には、下落時にあわてて解約したり苦情につながったりすることはほぼありません。私たちは、お客さまをこのような形での投資活動にご案内する責務があります。ここに、取扱商品の多寡は関係ありません。
投資商品を販売するのに、どれほどの取扱商品が必要か
投資の案内はできたとして、次に具体的な商品選定において取扱商品の豊富さがどれほど重要かについて考えていきましょう。
この問題は「できるだけたくさんの商品を扱っていたほうがいい」とか「限定したほうが良い」など議論が分かれるところなのですが、筆者は対面の金融機関での商品ラインナップはある程度絞ったほうが良いと考えています。その理由は二つあります。
一つは、対面金融機関を利用するお客さまが何を求めているのか、という点にあります。対面金融機関で購入することに価値を感じるお客さまは、今までのお付き合いから生まれた信頼関係やすぐに相談できる安心感などを重視しています。この場合、必ずしも豊富な商品ラインナップを取りそろえておかなければならないわけではありません。一方、手数料の安さや人気商品の有無を優先する人は、自身で情報収集して自ら行動できる場合が多く、非対面のネット証券などが向いていると考えられます。
もう一つの理由は、投資信託の仕組みを考えれば、絞り込んだ取扱商品でお客さまに一通りの選択肢を用意することは可能だからです。日本には約6000本の投資信託がありますが、基本的には6つの資産クラスの組み合わせでバリエーションが膨れ上がっていると考えています。筆者の考えている基本の6資産とは、日本株式、海外株式、日本債券、海外債券、日本リート、海外リートです。そこに、それぞれパッシブファンドとアクティブファンドがあることが把握できれば、おおまかな理解としては十分です。筆者はお客さまに投資信託を説明する際、太巻き寿司を例に出しています。基本的な材料は、のり、米、卵、かんぴょうなどどれも同じで、好みに応じて具材を足したり引いたりするのです。お店によってたくさんの商品が存在しますが、中身を見てみれば見知った具材の組み合わせでしかないのです。投資信託も同様に全く違う商品が存在するように見えて、実は同じような商品が多いということです。自金融機関のラインナップについて、上記6資産のいずれに該当するのか整理しておけばお客さまへの投資ガイド、商品選定はほぼ問題ないと思われます。
ときには、自金融機関のラインナップではお客さまのニーズに応えることができないこともあり得ますが、その場合は他金融機関での購入を案内すればよいと考えています。そもそも、日本には私たちが案内しなければ投資の世界に入ってこない人が多くいるのです。既に投資に関心があり手数料の安さに敏感に反応するような人ではなく、これまで投資という選択肢を考えてこなかった人々に対し、十分な説明と長期的なサポートを提供するのが私たち対面金融機関の役割です。商品ラインナップについても、このことを念頭に考えてほしいと思います。
自金融機関のお客さまのニーズを踏まえたラインナップを
現場の職員としては、投資を案内する上では取扱商品の数は問題ではありません。また、お客さまに具体的に商品選定してもらう際にも、絞り込まれた商品ラインナップで十分に販売活動は可能です。そうは言っても、難点を抱えた商品ばかりであったり、品ぞろえの意図が不明であったり、商品ラインナップに問題がある場合がないわけではありません。最後に各金融機関のラインナップの在り方について触れておきましょう。
お客さまに正しく投資を案内した上で、商品選定の際に現取扱商品では購入に至らない場合が多いとすれば、商品ラインナップを見直すべきでしょう。
支店長には、現場経験を経ている人が多くいることでしょう。ぜひ自身の経験を活かしつつ、今の現場が持っている情報を吸い上げるようなコミュニケーションをしてほしいと思います。現場の情報を正確に集約すれば、自金融機関におけるお客さまのニーズの傾向を把握できるはずです。そして、お客さまのニーズに合うラインアップへの変更を提言して、現場職員がより一層顧客本位での活動が行いやすい環境を整えてくれることを期待しています。