在米日本人はアメリカのインフレを“活用”すべく、老後は日本に戻るという選択肢も
インフレ率はこのように“明暗”を分けるものでありますが、少し角度を変えてみると、アメリカで働く日本人にとっては、このアメリカのインフレがありがたいこともあります。アメリカで働き老後は日本に帰る場合には、アメリカのインフレに合わせて資産が増えていたとしたら、ほぼインフレがない状態で価格がずっと変わらない日本での生活は比較的楽になるからです。
30歳の中堅どころとして年収$70,000で始め、ソーシャルセキュリティ年金のフルリタイヤメントエイジ67歳まで、年々インフレ率と同じ2.5%で収入が増えたとすると最後には$175,000程度までになります。この間、401(k)※1に月$500を積み立て続け、安定成長的に年平均5.5%目標で運用すると、リタイヤ時には$680,000になります。ちなみにこの額は、アメリカの両海岸の高コストエリアで老後を過ごす場合には、少しばかり心細い額です。アメリカはたとえ返済済の家を持っていたとしても、不動産価格がどんどん上がっている都市部では、固定資産税だけで年間100万円以上かかることはそう珍しくありません。医療費においては、日本と桁が二つくらい違ったりします。米フィデリティ社が出した計算によると、老後を通じて夫婦で死ぬまでに$240,000かかるということでした。将来的にインフレでどんどん値段が上がっていきます。恐ろしい話です。
※1 アメリカの確定拠出年金制度のこと。
これが、物価上昇が止まっている日本に$680,000を持って帰るとなると、かなり話が違ってきます。余裕をもって生活できる可能性がかなり高まるでしょう。
さらにソーシャルセキュリティ年金(公的年金)も同様です。日本の年金はマクロ経済スライドという考え方をベースに運営されており、受け取る年金はほぼ一生固定、インフレという概念がありません。アメリカのソーシャリセキュリティ年金は、いったん受給額が計算された後は、年々のインフレ率に応じて受給額が上がっていく仕組みです。
目安としてですが、たとえば現在年収$80,000の人がフルリタイヤメントエイジ67歳でリタイヤした場合、月に$2,100程度がもらえます。配偶者(働いていなかったと想定)は本人の50%がもらえるので、ふたりで$3,150。これが年々2%ずつ上がっていくイメージです。20年後87歳では、夫婦で月に$4,680になります。この上昇は、アメリカで暮らす限りは必要最低限の上昇であり、物価も上がっているので年金が上がっても買えるものは同じです。ところが、もしも今後も日本にインフレがほとんどなかったら、アメリカ年金は実質的に増え続けることになるのです※2。
※2 日本に帰っても、年金受給権があればアメリカの年金を受給できる(ただし、加入期間等の要件あり)。
アメリカで暮らし、子どももアメリカで自立しているのなら老後もアメリカで暮らしたいと思う方も多いですが、金銭的に不安がある場合には、インフレのない日本に帰ることができるのは安心な選択でもあると言えそうです。