ワクチン接種の進捗で景気回復期待が高まる米国

2020 年は新型コロナウイルスの蔓延によって米国経済は大きな落ち込みを見せました。感染拡大を抑制するため、経済活動を人為的に制限した影響が出たようです。しかし、米大統領選挙が終わったころから風向きが変わり、新大統領誕生を待ち構えていたかのように、選挙終了直後から、ファイザー社、モデルナ社等から新型コロナウイルスのワクチン開発に関する明るいニュースが発表されました。そして、昨年末からはワクチン接種も始まり、バイデン政権誕生後100 日間で2億回の接種が完了したようです。

ワクチン接種が進むことで、今後、米国での新規感染者数が減少すれば、米国内での経済活動への制限が緩和され、今後の米国景気の回復期待が高まります。景気が回復すれば、インフレ率(物価上昇率)も一段上昇し、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和を継続するか否かを決める目安となっている「インフレ率2%を安定的に上回る」状況が視野に入り始める可能性があります。

こうした状況を受け、米10 年国債利回り(長期金利)は昨夏の0.5%程度を底に上昇に転じ、本年3月末には1.7%台を回復しました。大統領選挙後、これら一連のニュースにマーケットが反応したと思われ、FRB による金融緩和の出口戦略を織り込み始めたようです(図1)。

PPI、PCEデフレーター……多岐にわたるインフレ指標

ところで、ひと口にインフレ指標といっても、さまざまな種類のインフレ指標が存在します。PPI(Producer Price Index、生産者物価指数)、CPI(Consumer Price Index、消費者物価指数)、PCE デフレーター(Personal Consumption Expenditure Deflator、個人消費支出価格指数)などです。

PPI は、企業が生産する製品・サービス価格の変動率を指します。製造業はさまざまな原材料を調達し、それらを加工して製品として出荷しますが、原材料の価格は、需給により大きく変化することがあります。例えば、原材料の価格変動を表す代表的な指標であるCRB 指数の動きを見ると、2020 年4月に前年同月比で▲ 16.3%まで低迷していたものがその後に持ち直し、2021 年3月には+36.9%にまで大きく上昇しています。

原材料価格の動きを素直に反映しやすいPPI は、この原材料価格と連動するような動きを見せており、3月には+5.9%まで上昇率が高まっています。FRB が注目するインフレ率がPPI ならば、FRB は直ちに出口戦略に動く、ということになります。一方、CPI やPCE デフレーターは、消費者が購入する財・サービス価格の変動率を指します。消費者が購入する財・サービスは、上記で説明した企業が生産する製品・サービスとは構成項目が大きく異なります。その結果、CPI やPCE デフレーターとPPI は、原材料価格による影響にも大きな差があり、また、変動性もかなり異なります。