「うちは資産家じゃないから」という人ほど高い“争続リスク”

2015年施行の改正相続法により、相続税の基礎控除が「5000万円+(1000万円×相続人数))」から「3000万円+(600万円×相続人数)」へと大きく引き下げられたとき、メディアでは「あなたの家も相続税がかかるかも!?」といったトーンの報道が相次ぎました。かくいう筆者も、そうした報道に関わった一人です。

しかし、改正前後のデータを比較すると、亡くなった人の中で相続税の課税対象になった人の割合は、全国平均で4.4%から8.0%に増えたにすぎませんでした。大多数の相続では、依然として相続税を払うに至っていないのです。

「なんだ、それなら心配することないじゃないか」と思うかもしれません。しかし、「相続税対策」と「相続対策」は別物で、むしろ怖いのは後者のほうなのです。

相続税は受け継いだ財産から払って終了となりますが、「争続」は感情的な問題をはらむだけに長期化します。親の相続を機に兄弟姉妹が関係断絶に至るケースも決して珍しくないのです。

こういう話をすると、相続を経験したことのない人は口をそろえて「うちはそんなに財産があるわけじゃないから大丈夫」と言います。

恐らくは、ドラマに登場するような資産家一家の“骨肉の争い”を想像しているのでしょう。しかし現実世界に目を移すと、そうした一族の長ほど、生前から専門家の手を借りて相続対策や相続税対策をしっかり行っているもので、むしろ争続リスクが高いのは「うちは資産家じゃないから」「兄弟姉妹の仲がいいから」と高を括っている人たちのほうなのです。

全国の家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件を遺産額別に見ると、遺産額が1000万円以下の事件が全体の約33%に上り、5000万円以下の事件が全体の8割弱を占めています(平成30年「司法統計」)。

争続は決して他人事ではなく、いつ、どこの家庭に起きても不思議はないのです。