ウォーレン・バフェット氏が2025年末をもって、バークシャー・ハサウェイのCEOを退任する。世界中から「オマハの賢人」「投資の神様」と称えられ、投資のプロフェッショナルから個人投資家に至るまで、多くの人々が氏の投資哲学に影響を受けてきた。
そんなバフェット氏が第一線を退く――この節目に際し、Finaseeでは金融・資産運用分野で活躍される識者の皆様に「ありがとうバフェット」をテーマに、バフェット氏の歩みから私たちが学ぶべきことは何かを、それぞれの視点でご解説いただく特別企画をお届けする。
今回は、資産運用分野で多様な取材経験を持ち、時事コラムでもバークシャー・ハサウェイの投資などについて取り上げてきた鈴木雅光氏の寄稿を掲載する。
バフェットの投資法を研究する勉強会に参加して…
私は一介のライターです。投資家として大きなお金を動かした経験もなければ、今回のテーマであるウォーレン・バフェットを研究しているわけでもないし、ましてや本人にインタビューをした経験もありません。
なので、ここで書けることと言えば、過去の取材で知ったバフェット像に関することに限られてしまうことを、まずお断りしなければなりません。
なかでも、最も印象的だった話をしましょう。
今から8年前、知人を介してある運用会社の勉強会に参加させてもらいました。どういう勉強会かというと、バフェット氏が過去に実行してきた、さまざまな投資について、その運用会社のアナリスト、ファンドマネジャーが研究・発表するというもので、セールスの人たちも含めて全員参加型で行われていました。
そして、運用会社の経営トップが、その発表内容についてコメントをした後、参加している社員が発表者に対して質問をしたり、自分自身の意見を述べたりしました。ちなみに、意見を述べる時は、経営トップの方が指名してから述べるのですが、ひとつルールがあって、「前の方と同じ意見です」は許されません。必ず別の確度からの意見が求められるのです。
とても厳しい勉強会ですが、「こんなことを定期的に何回も行っていたら、相当に実力がつくのだろうな」と思ったものです。
この勉強会のもうひとつの特徴は、研究したバフェットの目線で日本株に投資するとしたら、どこに投資するか、その理由はなぜなのか、という点にも言及することです。それは、この運用会社のアナリスト、ファンドマネジャーが、自分のバフェット研究に基づいて、どの日本企業に投資するのかを、全社員の前で公言するようなものです。
文字数の関係もあるので、ここで投資する理由については触れませんが、取り上げられた企業は、ソニー、森永製菓、エレコム、メガバンク、日精エー・エス・ビー機械、シマノ、などでした。
バフェット氏は情熱的な人物かもしれない!?
この時の勉強会で聞いた話で印象的だったのは、バフェット氏とデイビス夫妻の話でした。この話は、バフェット氏が行ってきた投資とは全く関係のないことですが、1956年に「バフェット・パートナーシップ」という投資会社を設立した時のストーリーです。当時のバフェット氏は若干26歳でした。
この投資会社は、7人の有限責任パートナーが合計10万5000ドルを出資して、バフェット氏がゼネラルパートナーに就任。パートナーは投資額に対して年6%の配当と、超過利益の75%を受け取る一方、バフェットは超過利益の25%を受け取るという取り決めでスタートしたそうです。
このファンドを立ち上げた時、バフェット氏は隣人であるデイビス夫妻の家に、毎日のように足を運び、「あなたが持っている10万ドルを私に預けませんか」とセールスしました。当時の10万ドルは、現在価値にして120万ドルに相当します。1ドル=160円で換算すると2億円弱といったところでしょうか。これだけの大金を、26歳の若者においそれと託せるはずもありません。恐らくデイビス夫妻は、預けるかどうかで迷ったことでしょう。でも、最後にはバフェット氏の熱意に負けて、10万ドルを託したそうです。
あるいは後年、バフェット氏の右腕としてバークシャー・ハサウェイの経営に長年、携わった故チャーリー・マンガー氏との出会いの話も、印象に残っています。
マンガー氏はハーバード大学ロースクールの出身で、マンガー法律事務所という自分のオフィスを持ち、不動産関連の弁護士として活躍していました。そのマンガー氏になぜバフェット氏が関心を持ったのか、そこのところはよく分かりませんでしたが、とにかく毎日のようにバフェット氏はマンガー氏に、投資会社のメンバーになってくれるようにお願いしたそうです。マンガー氏とバフェット氏の年齢差は6歳。マンガー氏からすれば、弁護士として安定した生活ができたのにもかかわらず、その生活を捨てて、スタートアップの投資会社の経営に参画したのです。
最初に、バフェット氏が経営した投資会社に10万ドルの大金を出資したデイビス夫妻にしても、バフェット氏に口説かれてビジネスを共にしたマンガー氏にしても、バフェット氏の熱意に“ほだされた”のかもしれません。「投資の神様」と言われると、何となく、すべては儲かるかどうかで判断する冷徹な人物というイメージが先に立ちますが、バフェット氏は案外、情熱的な人物なのかもしれません。この話を聞いて、そんなことを考えていました。
