ウォーレン・バフェット氏が2025年末をもって、バークシャー・ハサウェイのCEOを退任する。世界中から「オマハの賢人」「投資の神様」と称えられ、投資のプロフェッショナルから個人投資家に至るまで、多くの人々が氏の投資哲学に影響を受けてきた。

そんなバフェット氏が第一線を退く――この節目に際し、Finaseeでは金融・資産運用分野で活躍される識者の皆様に「ありがとうバフェット」をテーマに、バフェット氏の歩みから私たちが学ぶべきことは何かを、それぞれの視点でご解説いただく特別企画をお届けする。

バフェット氏にまつわる書籍を執筆し、また日々アドバイザーとして個人投資家に接する際もバフェット氏の投資哲学が活きているという、栫井駿介氏の寄稿を掲載する。

2025年末、ウォーレン・バフェット氏がバークシャー・ハサウェイのCEOを退任します。「オマハの賢人」として60年もの長きにわたり世界の投資家を導いてきた存在が、ついに第一線から身を引く――そのニュースを聞いたとき、私は一人の投資家として深い寂しさと尊敬の念を抱きました。

私がバフェット氏に興味を持ったのは、大学時代に投資を学び始めた頃です。書店には必ずといっていいほどバフェット本が並び、投資を学ぶ者にとって避けては通れない存在でした。

さらに、私が大学で学んだ企業価値評価の考え方が、バフェット氏の投資哲学と驚くほど一致していたことも大きな理由です。事業を理解し、その価値を見極め、価値より安い価格で買う。MBAで学んだ経営の知識とも重なり、まさに私が歩んできた道とバフェット氏の哲学が一本に繋がった瞬間でした。

この考え方を多くの個人投資家に伝えたい。そう思って始めたのが、現在の私の仕事です。

「素晴らしい企業をそこそこの価格で買う」

私の投資観を劇的に変えたのは、バフェット氏の次の名言です。

「そこそこの企業を素晴らしい価格で買うより、素晴らしい企業をそこそこの価格で買う方がよい」

私はもともと割安株投資を中心にしていました。しかし割安には割安の理由があります。たとえば、私はある企業を株価が下落しているという理由で買ってしまいましたが、企業体質や開示の問題が明らかになるにつれ、安心して長期保有できる企業ではないことが分かりました。

一方、素晴らしい企業は本質的価値が高く、PER20倍、30倍といった“そこそこ高い価格”がついていることが多いです。しかし、成長を続ける企業であれば、たとえ“普通の価格”で買ったとしても、長い時間の中でその企業価値が株価を押し上げてくれます。

私自身、コロナ禍にマイクロソフトへ投資したとき、この言葉に強く後押しされたことを覚えています。PERは30~40倍と決して割安ではありませんでしたが、企業としての力強い成長を信じて購入しました。その後、特にトラブルや不安に直面することもなく、ただ持ち続けるだけで株価は大きく上昇しました。バフェット氏の哲学の意義を強く実感した経験です。

この経験は、投資家としてだけでなく、アドバイザーとして個人投資家の皆さんに伝えるべき重要な教訓になっています。