ウォーレン・バフェット氏が2025年末をもって、バークシャー・ハサウェイのCEOを退任する。世界中から「オマハの賢人」「投資の神様」と称えられ、投資のプロフェッショナルから個人投資家に至るまで、多くの人々が氏の投資哲学に影響を受けてきた。
そんなバフェット氏が第一線を退く――この節目に際し、Finaseeでは金融・資産運用分野で活躍される識者の皆様に「ありがとうバフェット」をテーマに、バフェット氏の歩みから私たちが学ぶべきことは何かを、それぞれの視点でご解説いただく特別企画をお届けする。
最終回となる今回は、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネジャーである、農林中金バリューインベストメンツ 奥野一成氏に聞いた。
安い株ではなく「リーズナブル」な株を買う その極意
ウォーレン・バフェットは、バリュー投資家なのでしょうか。
「バフェット=バリュー投資家」と思っている方は、結構いらっしゃると思います。でも、いろいろな側面からバフェット氏について考察すると、「いやいや、そうじゃないよね」という側面が現れてきます。
バフェット氏の師であるベンジャミン・グレアム氏は、「ネットネット株」といって、企業の純資産に対して、株価が安く評価されている株式に投資することを提唱しました。バフェット氏はその考え方に大いなる共感を覚え、自分自身もネットネット株への投資で、資産を大きく増やしていきました。
ところが、事もあろうかその方法が通用しない会社に、バフェット氏は多額の資金を投じてしまいました。それが、バフェット氏がCEOを務めているバークシャー・ハサウェイです。
今では、さまざまな企業の株式を保有する投資会社、というイメージが強いバークシャー・ハサウェイですが、もともとは綿紡績業の会社でした。同社の株価は極めて安値だったこともあり、当時、ネットネット株への投資で大きな利益を上げていたバフェット氏は、自信満々で、この会社への投資を進めていきました。1962年の話です。当時のバークシャー・ハサウェイの株価は、“二束三文”でしかなく、バフェット氏はどんどんこの会社に投資していきました。
ところが、バークシャー・ハサウェイの株価は一向に値上がりしませんでした。なぜなら当時の米国における繊維業界には、もはや将来性がなかったからです。繊維産業の中心は日本に移りつつあり、価格競争の面でも米国の繊維産業が日本のそれに立ち向かうことは困難になっていました。
そのような状況で、一時的に株価は値上がりしたものの、バフェット氏が考えていた売値にはあと一歩届かず、その後は再び株価が値下がりしてしまい、バフェット氏は株式を手放すチャンスを失ってしまいました。この件は、バフェット氏が“ボロ株投資”を止める大きなきっかけになりました。
この一件があってから、バフェット氏は投資スタイルを変えていきました。ボロ株投資からは手を引き、「良い会社の株式を、リーズナブルな株価で買う」ようになったのです。
リーズナブルは「安い」ではなく、「合理的な」という意味です。良い企業の株式を、理に適った株価で買う。言い方を変えると、その企業の価値に見合った株価で投資するということです。
バフェット氏が投資してきた会社ではコカ・コーラが有名です。では、コカ・コーラは割安でしょうか。
現在も保有している同社のPBRは10倍近くにも達しています。アップルはバリュー株というよりもグロース株ですし、つい先日投資したことが発表されたアルファベット(グーグルを傘下に持つ)は、PERが約38倍、PBRが約12倍ですから、これも決してバリュー銘柄とは言えません。こうした点からも、「バフェット=バリュー投資家」という認識は、誤解であることが分かります。
