7月18日付の某全国紙夕刊に、こんな見出しがありました。
「投資マネー10兆円流入 ブラックロック コロナ追い風」
米国の資産運用会社最大手であるブラックロック社の2020年4~6月期決算で、最終利益が前年同期比21%増の12億ドルになったという話題です。この間、1000億ドル(10兆円超)の資金流入があり、運用資産の総額は7.3兆ドル、過去最高だった2019年末の7.4兆ドルに迫ったとのこと。1ドル=105円で換算すると、実に766兆円です。
報道によれば、今回もたらされた1000億ドルの資金流入の大半は、「iシェアーズ」というブランド名を持つETF(上場投資信託)によるものでした。かつ、そのETFの中でも株式ETFは142億ドルの資金流出になりましたが、債券ETFには570億ドルもの資金流入があったそうです。
コロナ禍で4兆円以上の資金が流入した日本の投資信託市場
さて、投資信託への資金流入は米国に限った話ではなく、日本も同様です。7月16日付の某全国紙夕刊には、「指数連動型投信に1兆円」という記事が掲載されました。
公募投資信託全体の資金流出入状況を、新型コロナウイルスのパンデミックに端を発して株価が急落した3月以降で見ると、3~6月の4カ月間で設定額の合計が25兆2788億8600万円、解約額の合計が20兆9292億1800万円、償還額の合計が1535億円となり、設定額から解約額と償還額を差し引いた資金純流入額は4兆1961億6800万円となっています。
この数字を見て皆さんはどう思いますか。「いよいよ日本の個人も資産運用に対して興味を持ち始めたのだな」と考える人は結構多いのではないでしょうか。実際、この全国紙の記事でも、こう書かれています。
「新型コロナウイルスまん延で株価が急落した3月以降、インターネット証券などの口座開設が増加。商品設計が分かりやすく、運用コストが安い投資信託に資金が向かっている」。「コロナショック相場をきっかけに投資に踏み出した若年層は、ネット証券を中心に口座を開いている」。「ネット証券の顧客は20~40代が中心だ。ここ2年ほど約30年ぶりの高値圏にあった日経平均がコロナで大きく下がったのを好機とみている」。
確かに、インターネット証券各社は、コロナ禍の中でも新規口座開設件数を大きく伸ばしたようで、某社では連日、社員に大入り袋が出たという話も耳にしました。
データを詳細に分析することで、見えてくる実態とは?
では、本当に個人はコロナ禍による株価急落を千載一遇のチャンスと見て、積極的に投資信託を買っているのでしょうか。
この数字を見てください。投資信託協会が発表している「公募投資信託の資産増減状況」のデータです。投資信託のタイプ別に、3~6月の4カ月間における資金の流出入額を計算すると、以下のようになりました。
投資信託協会のデータは、投資信託のタイプをもっと細分化しており、この他に長期公社債投信や内外債券ファンドなどもあるのですが、現状においてはいずれも純資産残高の規模が小さく、公募投資信託に集まっている資金の大半は、上記のうち追加型株式投資信託、ETF、MRFに集約されています。単位型は参考までに掲載しましたが、6月末時点の純資産総額は全体でわずか7561億円程度なので、これも無視して良いくらいでしょう。
とりあえず上記の4タイプで資金の増減額を計算すると、3~6月までの4カ月間で、4兆2114億700万円の資金流入になるので、前出の公募投資信託全体の資金流入額である4兆1961億6800万円とほぼ同額になります。この点からも、公募投資信託に集まっている資金の大半が追加型株式投資信託とETF、MRFに集約されていることが分かります。
さて、本当に個人がコロナ禍による株価急落を見てアニマルスピリットを発揮し、投資信託に資金をシフトさせたのかどうかですが、おそらく某全国紙が記事に書いているほどには動いていないと思います。
上記の数字を改めて見てみると、資金流入の大半はETFであることが分かります。しかも、資金流入はETFの「設定」によって生じたものですが、ETFを設定によって購入できるのは、現実的には機関投資家など大口で取引できる法人投資家のみ。個人がETFを購入する場合は、東証ETF市場を通じて買い付けるのが普通です。ETFの設定に伴う資金流入が、公募投資信託全体の資金流入額である4兆1961億6800万円のうち91%を占めており、これが法人資金だとしたら、4カ月間の資金流入に占める個人マネーの比率は、約9%ということになります。
この数字を見る限り、某全国紙の記事に書かれていたように、コロナ禍による株価急落を受けて若年層の資金が投資信託に流入しているというのは、いささか誇張が過ぎるのではないかと思うのです。